引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
「しょんぼりしているジルヴェスト様に、何かしてあげたいのです」
 エレスティアが意気込むと、アイリーシャが真剣な顔になった。彼女は手に持っていた封筒をテーブルに戻し、スカートの上に両手を美しく添える。
「エレスティア様の意気込みと覚悟、しかと受け止めました。それではわたくしも真剣に向き合わなければなりませんわね。エレスティア様は本当にお優しいですわ。謁見希望も多くて日々お忙しいですのに、体力があり余っている陛下の相手をほぼ毎晩されて早いご懐妊へと繋がり――」
「ごほっ」
 どうして過剰反応するのかアイリーシャは知らない。彼女は「つわりですか!?」と言って立ち上がり、慌ててエレスティアの元へ向かい背を撫でる。
 誤解をさせてしまった。違うんですと答えようとしたものの、それではどうしてこのように過剰な反応をしてしまったのか説明ができない。
 そうハッと気づいて、エレスティアが心底困った時だった。
「ぴーっ」
 給湯室側の扉が思いきり開いた。
 驚いた拍子に咳が引っ込んだ。そんなエレスティアの背を撫でていたアイリーシャも、同じくそちらに目を向ける。
「まぁっ、ピィちゃんまた盗み食いしていたのですわねっ?」
「ぴ……ぴぴぃ……」
 目を吊り上げたアイリーシャの指摘に、ピィちゃんが『そ、それは』と言い訳を探すような言葉を発しているようにエレスティアには感じた。
「まったく、立派な心獣になるためには鍛錬も必須ですのよっ。むちむちボディで、より俊敏な動きができるわけがありませんわっ」
「アイリーシャ様、ピィちゃんは鳳凰化していないので――」
「どちらも同じピィちゃんですので、ミニバージョンでも能力を発揮できるように躾けなければなりませんわ。生まれたばかりは配慮しましたが、心獣の教育というのは、お渡しした教科書に載っている通り、強い魔法師として生まれたわたくしたちと同じくきちんと教育していくことが重要です」
 それはどうだろう、とエレスティアは思う。
 鳳凰化している際のピィちゃんに聞いてみたら、小さい姿をしている間は精神も幼体化しているみたいだという回答を貰った。通常の心獣と違って魔力を貯蔵せず、小鳥の姿の時にはほとんどエレスティアの中に魔力は戻っている。通常の心獣教育にあてはめられるのかどうかも謎だ。
 ピィちゃんも、生まれたばかりの時よりはいろいろと覚えてきてはいた。
『待て』がきけるのも、おやつはいずれもらえるので我慢する、ということも覚えているからだ。
(はっ。そうだわ)
 ここは、ピィちゃんの成長っぷりでアイリーシャの意識をそらそう。
「ねぇピィちゃん、ちょうどいいところに来たわ。さすがね。何かいい案はあるかしら?」
 普通の心獣に比べると機能していない部分も多いが、ピィちゃんはエレスティアの気持ちの変化を感じ取ることはできる。
 先程までどんな会話をしていたのか察したのか。
 もしかしたら給湯室で聞き耳を立てていた可能性も否めないが――
「ぴっ」
 ピィちゃんが凛々しい表情をし、『任せろっ』と言わんばかりに翼で親指を立てるような仕草をし、飛んだ。
 エレスティアとアイリーシャが見つめる中、ピィちゃんが降り立ったのは細い専用棚だ。そこにはエレスティアが短い休憩に読む本が詰められている。短い間にどんどん読まれていってしまう本を入れ替える担当の者たちが、頭に疑問符をいっぱい浮かべている。
 その棚の上には、まさに読んでいる最中の本が置かれていた。
「ぴぴっ、ぴ!」
 とてとてと棚の上を歩いたピィちゃんが、その本を足で何度か踏み。
「まぁピィちゃん、蹴るなんてお行儀が悪いわよ」
「エレスティア様、ツッコミどころはそこではないかと……小鳥にしては鳥っぽくない動きですわ……」
「とにかく行ってみましょう」
 アイリーシャを誘い、エレスティアはその棚へと向かう。
 手に取って二人で表紙を覗き込む。
「あ」
「ああ、なるほど?」
 途端、アイリーシャの口から感心した声が漏れた。
 この部屋に本を補充するのは、出入りしている補佐官たちだ。彼らは好みを把握していないので、令嬢たちに人気の恋愛小説の新刊を、新刊入荷コーナーからひとまずごっそり持ってくることがほとんどだ。そして『活字を読むという行為が幸せ』なエレスティアは、ある本であればなんでも読むタイプだ。
 読みかけのその本は、心獣に二人乗りしている男女の絵が描かれていた。
 魔法師たちは、強い魔法師の証である心獣持ちに憧れるが、心獣持ちの魔法師たちは心獣が受け入れてくれた相手でないと伴侶に迎え入れられないという悩みがある。心獣が受け入れると、伴侶同士であれば互いの心獣に一緒に同乗することは可能となるのだ。
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