引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
「そういえば、最近はバタバタでしていなかったわね。久しぶりにどうかと誘ってみようかしら」
「それがいいかもしれませんわね。ピィちゃんも、しっかり役に立ちますわね」
アイリーシャが、いい子だとピィちゃんを褒めて頭を指先で撫でた。ご褒美におやつをあげようと言って、使用人を呼ぶべくベルを鳴らす。
(教育談義が始まらなくてよかったわ)
ほっとしたエレスティアと同時に、主人に共感したようにピィちゃんも丸い胸に右翼をあてて「ほーっ」と息を大袈裟に吐いていた。
◇◇◇
皇帝の雰囲気が一層怖いことになっている。
そう謁見の時には囁かれていたが、各地の大貴族を呼び集めての定例会議の際には、様子が激変していた。領地報告の一人には、『皇帝が唯一苦手としている男』としても知られているバリウス公爵もいたのだが、彼のジョークに対しても上機嫌なままだった。
――何があったのかあとで報告してくれ。
――嫌です。
解散後、バリウス公爵に捕まった哀れな補佐官がそう答えていた、なんてことを知らない皇帝陛下は、謁見前の待機部屋で使用人に身なりを整えられている間もかなり雰囲気は丸かった。
「ふふふ……エレスティアにねだられた。これは実行するしかない」
また言ってるよ、と周りの補佐官たちが目を合わせる。
「えー、それは検討予定ではなく、もう実行の判断がまとまったのですか?」
「もちろんだ。エレスティアたっての希望だからな」
ジルヴェストは、まさにめろめろ状態だった。というよりエレスティアに『話したいことがあるのですが』と移動中に呼び止められた際、支柱から覗き込む姿を目撃した瞬間、かわいさのあまり疲れが吹き飛んだ。俺の妻はなんて愛らしいの塊なんだっ、と。
申し訳なさそうに、日程を調整する時間も必要なのでできるだけ早く話しておいたほうがいいかと思った、と前置きした彼女は、久しぶりにジルヴェストの心獣で散歩するのはどうだろうと提案してきた。
(あれは、絶対したがっていた。言い方もなんて控えめでかわいいんだっ)
エレスティアがしたいことはなんでも叶えると言ってあるのに、したいから予定を立ててくれないか、とまだ言えないところもかわいい。
徐々に言えるようになってきてはいる。その成長を見られるのも至福――。
「――陛下っ、皇帝陛下! 皇妃様のこととなると我々の声も聞こえなくなるのはどうにかしてくださいよっ。宰相閣下がまた倒れません? 側近の方々は反対するのでは」
「なぜそう思う?」
「お腹の子に影響があってはいけないからと、皇妃様のほうも魔法は極力控えるよう指導されているのですよね?」
「ああ。そのため警備も増やしている」
エレスティアは周辺国からもかなり注目されている。皇帝の子を初めて宿した女性、となるとさらに警戒はしていたほうがいい。
「何かあった際にご自分で浮遊魔法をかけられないでしょう」
「俺がするから問題ない」
答えた途端、部下たちがざわめいた。
「なんだ」
「う、嘘ですよね? わたくし、皇子時代から人間性も信じております」
「私たちもそうです」
「だから、なんだ。言いたいことがあるのなら言っていい。許可する」
「陛下はご自分の心獣をお捨てになられる気ですか?」
口にし、他の男たちも揃ってわざわざ態度で『ゾッとした』と示す。
心獣に浮遊魔法をかけて飛ぶ。高位の魔法師は二種類の魔法を同時発動できるが、同じ浮遊魔法を二重展開することはできない。
強い魔法を使う際には、足元の浮遊魔法を解除しなければならないのと同じで、魔法には法則が存在してしいる。
「俺の心獣だ。そう高い位置でなければ対応できる」
「まぁ……確かにそうですね。陛下の心獣は当代随一の大きな体と強靭な肉体をお持ちですから」
「それはどうだろうな。翼を広げない状態であっても〝鳳凰〟のほうが大きい気がしている」
ジルヴェストは肘置きに腕を乗せ、頬杖をつきながら素直な感想を述べた。そう言えるくらいにはここにいる補佐官たちとの付き合いは長い。
彼らが顔を見合わせる。
「……そういえば、そうでしたね」
「普段小鳥の姿ゆえ、よく頭から抜けてしまいます」
「お前らも、鳳凰だの神の使者だのとあれだけ騒いでおきながら」
ジルヴェストは少し呆れてしまった。エレスティアの心獣は鳥の姿をしている。ジルヴェストの心獣以来となるその黄金色の毛並み、それだけでなく威厳ある巨体から、国民の一部が神が贈った鳳凰やらと神聖視しているのだ。
その心獣を生み出した新たな皇妃は、唯一無二の守護と国政を成し遂げる女性魔法師として、この国の歴史に残るだろう、と。
「それがいいかもしれませんわね。ピィちゃんも、しっかり役に立ちますわね」
アイリーシャが、いい子だとピィちゃんを褒めて頭を指先で撫でた。ご褒美におやつをあげようと言って、使用人を呼ぶべくベルを鳴らす。
(教育談義が始まらなくてよかったわ)
ほっとしたエレスティアと同時に、主人に共感したようにピィちゃんも丸い胸に右翼をあてて「ほーっ」と息を大袈裟に吐いていた。
◇◇◇
皇帝の雰囲気が一層怖いことになっている。
そう謁見の時には囁かれていたが、各地の大貴族を呼び集めての定例会議の際には、様子が激変していた。領地報告の一人には、『皇帝が唯一苦手としている男』としても知られているバリウス公爵もいたのだが、彼のジョークに対しても上機嫌なままだった。
――何があったのかあとで報告してくれ。
――嫌です。
解散後、バリウス公爵に捕まった哀れな補佐官がそう答えていた、なんてことを知らない皇帝陛下は、謁見前の待機部屋で使用人に身なりを整えられている間もかなり雰囲気は丸かった。
「ふふふ……エレスティアにねだられた。これは実行するしかない」
また言ってるよ、と周りの補佐官たちが目を合わせる。
「えー、それは検討予定ではなく、もう実行の判断がまとまったのですか?」
「もちろんだ。エレスティアたっての希望だからな」
ジルヴェストは、まさにめろめろ状態だった。というよりエレスティアに『話したいことがあるのですが』と移動中に呼び止められた際、支柱から覗き込む姿を目撃した瞬間、かわいさのあまり疲れが吹き飛んだ。俺の妻はなんて愛らしいの塊なんだっ、と。
申し訳なさそうに、日程を調整する時間も必要なのでできるだけ早く話しておいたほうがいいかと思った、と前置きした彼女は、久しぶりにジルヴェストの心獣で散歩するのはどうだろうと提案してきた。
(あれは、絶対したがっていた。言い方もなんて控えめでかわいいんだっ)
エレスティアがしたいことはなんでも叶えると言ってあるのに、したいから予定を立ててくれないか、とまだ言えないところもかわいい。
徐々に言えるようになってきてはいる。その成長を見られるのも至福――。
「――陛下っ、皇帝陛下! 皇妃様のこととなると我々の声も聞こえなくなるのはどうにかしてくださいよっ。宰相閣下がまた倒れません? 側近の方々は反対するのでは」
「なぜそう思う?」
「お腹の子に影響があってはいけないからと、皇妃様のほうも魔法は極力控えるよう指導されているのですよね?」
「ああ。そのため警備も増やしている」
エレスティアは周辺国からもかなり注目されている。皇帝の子を初めて宿した女性、となるとさらに警戒はしていたほうがいい。
「何かあった際にご自分で浮遊魔法をかけられないでしょう」
「俺がするから問題ない」
答えた途端、部下たちがざわめいた。
「なんだ」
「う、嘘ですよね? わたくし、皇子時代から人間性も信じております」
「私たちもそうです」
「だから、なんだ。言いたいことがあるのなら言っていい。許可する」
「陛下はご自分の心獣をお捨てになられる気ですか?」
口にし、他の男たちも揃ってわざわざ態度で『ゾッとした』と示す。
心獣に浮遊魔法をかけて飛ぶ。高位の魔法師は二種類の魔法を同時発動できるが、同じ浮遊魔法を二重展開することはできない。
強い魔法を使う際には、足元の浮遊魔法を解除しなければならないのと同じで、魔法には法則が存在してしいる。
「俺の心獣だ。そう高い位置でなければ対応できる」
「まぁ……確かにそうですね。陛下の心獣は当代随一の大きな体と強靭な肉体をお持ちですから」
「それはどうだろうな。翼を広げない状態であっても〝鳳凰〟のほうが大きい気がしている」
ジルヴェストは肘置きに腕を乗せ、頬杖をつきながら素直な感想を述べた。そう言えるくらいにはここにいる補佐官たちとの付き合いは長い。
彼らが顔を見合わせる。
「……そういえば、そうでしたね」
「普段小鳥の姿ゆえ、よく頭から抜けてしまいます」
「お前らも、鳳凰だの神の使者だのとあれだけ騒いでおきながら」
ジルヴェストは少し呆れてしまった。エレスティアの心獣は鳥の姿をしている。ジルヴェストの心獣以来となるその黄金色の毛並み、それだけでなく威厳ある巨体から、国民の一部が神が贈った鳳凰やらと神聖視しているのだ。
その心獣を生み出した新たな皇妃は、唯一無二の守護と国政を成し遂げる女性魔法師として、この国の歴史に残るだろう、と。