引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
 ジルヴェストは書類の山を見て、その手をすんでのところで止めていた。
 宰相も息を止めていて、彼は無事だった書類を確認して浅く息を吐く。
 すると、そばからアインスが指摘した。
「なぜ宰相閣下に?」
「皆、居場所を口止めされていたからだ」
「閣下が原因ではありませんよ。近くの部屋にお通しして、そこで医師の診察を受けることになったのです。不安を(あお)らないよう、移動先は知らない者がほとんどかと」
 アインスがため息を落とし、ジルヴェストの横から書類の山の一つを抱えた。
「それで戻っていらしたのですか。少し眩暈(めまい)がするとおっしゃっただけですよ」
「アイリーシャの話によれば、食事も少なかったとか」
「チッ。あの女」
 アインスは書類を抱え直した際、顔を背けて舌打ちした。
「ということは本当なんだなっ? エレスティアは体調が悪いんだな!?」
 ジルヴェストがアインスの肩を(つか)む。
「陛下、お顔が近いです」
「思ったことはなんでも言ってくれと伝えても、我慢するような健気な妻なのだぞっ。しかも食事も最近少なくなっていたことを俺が気付かなかったとはっ。彼女は俺に知られないよう努めていたのだろう。なんてことだっ」
「陛下、離婚の危機になったわけでもないのに大袈裟(おおげさ)な――ぐぇ」
「エレスティアはどこだっ?」
 ジルヴェストがアインスを揺らした。
「あなた様にお教えしたら、落ち着いて診察もできなくなります。ただの眩暈です。落ち着いてください」
「落ち着いていられるかっ、病だったらどうする!?」
「ですが、あなた様が突入されたら、医師が心臓発作を起こす可能性がありますよ。少し前まで【冷酷な皇帝】と言われていたことをお忘れですか」
「残念ながら今も言われている」
 急にジルヴェストは真顔になった。
「国を守るためなら、俺の政治のやり方の一部がそう評価されようとも構わない」
「でしょうね。信条は変わっていないようで安心しました。というか国境での公務はなされたのですか?」
「代理人を置いてきた」
 それを聞いて、宰相がふらっと長椅子の背にもたれかかった。「宰相様がっ」と言って駆け寄る部下もいれば、「委任状の書類も増えたっ」「まともに書類を作れない相手だったらどうしよう」など、次の心配をし始める部下たちも現れ出す。
 そこへ慌ただしい音が近付いた。
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