引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
教える気はないらしい。彼は顎を撫で、上へ視線を向けてしまう。
(……性別、かな?)
確かに、彼なら魔力の質から性別も見破ってしまえそうだ。
魔力、と思い浮かべたところで、エレスティアは気になっていたことをふっと思い出した。
「あの――」
「心配することはない」
古代王ゾルジアが顔を向け、きっぱりと言った。
「君と私は繋がっている。君が気にしているのを感じて、こうして話せる短いタイミングにやってきた。王戦があった時代、なぜ血族制でなかったかというと、我々古代人の魔力は遺伝しないものだったからだ」
エレスティアの召喚により、彼は心獣に近い存在になっている。
そのため彼女の感情の動きには敏感だ。
本来はそれをピィちゃんができるはずなのだが、小鳥の状態になっている場合にはできないことが発覚している。それもまた異例なことで、他の魔法師たちもピィちゃんには興味津々だった。感情豊かで、自分のことを主張するところもまるで普通の小鳥みたいだ、と。
「遺伝は、ないのですか? 全然?」
「魔力量で政略結婚を重ねてきた歴史を持つ君たちには、考えられない話かもしれないな。しかし実際、私がいた時代は魔力量も魔法タイプも生まれは関係なかった」
ジルヴェストら皇族だけが持つ『指示魔法』といった遺伝性の特殊な魔法も、存在していないと言われても想像がつかない。
書物からの知識ではあるが、他の国々も、魔法国家であるほど魔力や魔法での血統結婚が多い印象だ。
「この世で一人だけ、というのは寂しいものだが、今となってはそれでよかったのかもしれないと私も感じている。君の、未来の選択肢が増える」
微笑みかけられ、エレスティアは「あ」と声が出た。
「君の子供に、君が持つ私と同じ魔力が遺伝することはない。その特殊性もだ。君がオヴェール公爵家から引き継いだ魔力、その血族の特性と、夫の魔力を受け継いだ才能溢れる子が生まれるだろう」
つまり、この国の魔法師としての子が普通に生まれてくるのだ。
エレスティアは肩から力が抜けた。
「大王様、ありがとうございます……私は、私にもまだ分からない部分が多いこの魔力について、悩まなくともいいのですね」
「ああ。基礎訓練は必要だが、まずは初めての懐妊だ。何かあればそちらを優先しなさい」
「はい」
魔法師とは違う魔力の使い方。その使い方や制御方法を教えてくれているのは、古代王ゾルジアだ。
「ただただこの子に会える日を、楽しみに待とうと思います」
エレスティアは、会えることを楽しみにしている、と心の中で囁きかけながらまだ変化のない下腹部を、愛おしげに撫でた。
秋も深まってきた。
日中でも肌寒さを感じるようになり、宮殿内でもレディたちは何かしら羽織るアイテムが増えている。生地の上質さ、腕のいい刺繍屋、デザイナー――それらを自慢し合う姿は外でも珍しくない光景だ。
一時帰宅した夫との時間が持てることになり、エレスティアは後宮で彼を待っていた。
このあと彼女も王都内の視察が入っているので、時間は短い。
しかしながら、こうして少しでも都合が合わせられる時には、一緒に過ごそうとしてくれる夫の気持ちが嬉しくて胸にじーんっとくるものがある。
(心なしか妊婦向けの紅茶も美味しく感じるわ)
いや、もしかしたら魔法で妊婦向けに作られた紅茶の、濃さに少々物足りなさを感じる部分に慣れつつあるのかもしれない。
中庭の植物が風に揺れる音だけが聞こえてくる。
なんとも穏やかな時間だ。
しかしながら――朝以来の再会となる、本日やって来た夫、皇帝のジルヴェスト・ガイザーは、少し元気がない。
「かわいい妻を全力で愛でられないとは……」
またしても聞こえてきた小さな呟きに、エレスティアは困った顔に微笑みを張りつかせる。
彼がこの調子なので、心獣をそばに呼び戻そうか本気で悩んだ。しかしながら、近くにいたアインスが残ってくれて助かった。
「気にしないでいいですよ」
アインスが言い、そして残念な目をジルヴェストへと向ける。
「普段からうっとうしいほど愛でているでしょう」
「抱き上げたい……ぎゅっとしたい……」
エレスティアは、夫が震える両手を持ち上げていくのを困ったように眺める。
させてあげたいのは山々なのだが、医師に止められているのだ。
かわいそうなので他に何か夫に言ってあげられる優しい言葉はないかとエレスティアは考えるのだが、この状態があの日からずっと続いているので、アインスは容赦がない。
「圧迫は避けるように、とのことです。皇帝の初めての御子、エレスティア様にとって初めての妊娠ですから、何かあってはならないと、かなり慎重な対応が決定しています」
(……性別、かな?)
確かに、彼なら魔力の質から性別も見破ってしまえそうだ。
魔力、と思い浮かべたところで、エレスティアは気になっていたことをふっと思い出した。
「あの――」
「心配することはない」
古代王ゾルジアが顔を向け、きっぱりと言った。
「君と私は繋がっている。君が気にしているのを感じて、こうして話せる短いタイミングにやってきた。王戦があった時代、なぜ血族制でなかったかというと、我々古代人の魔力は遺伝しないものだったからだ」
エレスティアの召喚により、彼は心獣に近い存在になっている。
そのため彼女の感情の動きには敏感だ。
本来はそれをピィちゃんができるはずなのだが、小鳥の状態になっている場合にはできないことが発覚している。それもまた異例なことで、他の魔法師たちもピィちゃんには興味津々だった。感情豊かで、自分のことを主張するところもまるで普通の小鳥みたいだ、と。
「遺伝は、ないのですか? 全然?」
「魔力量で政略結婚を重ねてきた歴史を持つ君たちには、考えられない話かもしれないな。しかし実際、私がいた時代は魔力量も魔法タイプも生まれは関係なかった」
ジルヴェストら皇族だけが持つ『指示魔法』といった遺伝性の特殊な魔法も、存在していないと言われても想像がつかない。
書物からの知識ではあるが、他の国々も、魔法国家であるほど魔力や魔法での血統結婚が多い印象だ。
「この世で一人だけ、というのは寂しいものだが、今となってはそれでよかったのかもしれないと私も感じている。君の、未来の選択肢が増える」
微笑みかけられ、エレスティアは「あ」と声が出た。
「君の子供に、君が持つ私と同じ魔力が遺伝することはない。その特殊性もだ。君がオヴェール公爵家から引き継いだ魔力、その血族の特性と、夫の魔力を受け継いだ才能溢れる子が生まれるだろう」
つまり、この国の魔法師としての子が普通に生まれてくるのだ。
エレスティアは肩から力が抜けた。
「大王様、ありがとうございます……私は、私にもまだ分からない部分が多いこの魔力について、悩まなくともいいのですね」
「ああ。基礎訓練は必要だが、まずは初めての懐妊だ。何かあればそちらを優先しなさい」
「はい」
魔法師とは違う魔力の使い方。その使い方や制御方法を教えてくれているのは、古代王ゾルジアだ。
「ただただこの子に会える日を、楽しみに待とうと思います」
エレスティアは、会えることを楽しみにしている、と心の中で囁きかけながらまだ変化のない下腹部を、愛おしげに撫でた。
秋も深まってきた。
日中でも肌寒さを感じるようになり、宮殿内でもレディたちは何かしら羽織るアイテムが増えている。生地の上質さ、腕のいい刺繍屋、デザイナー――それらを自慢し合う姿は外でも珍しくない光景だ。
一時帰宅した夫との時間が持てることになり、エレスティアは後宮で彼を待っていた。
このあと彼女も王都内の視察が入っているので、時間は短い。
しかしながら、こうして少しでも都合が合わせられる時には、一緒に過ごそうとしてくれる夫の気持ちが嬉しくて胸にじーんっとくるものがある。
(心なしか妊婦向けの紅茶も美味しく感じるわ)
いや、もしかしたら魔法で妊婦向けに作られた紅茶の、濃さに少々物足りなさを感じる部分に慣れつつあるのかもしれない。
中庭の植物が風に揺れる音だけが聞こえてくる。
なんとも穏やかな時間だ。
しかしながら――朝以来の再会となる、本日やって来た夫、皇帝のジルヴェスト・ガイザーは、少し元気がない。
「かわいい妻を全力で愛でられないとは……」
またしても聞こえてきた小さな呟きに、エレスティアは困った顔に微笑みを張りつかせる。
彼がこの調子なので、心獣をそばに呼び戻そうか本気で悩んだ。しかしながら、近くにいたアインスが残ってくれて助かった。
「気にしないでいいですよ」
アインスが言い、そして残念な目をジルヴェストへと向ける。
「普段からうっとうしいほど愛でているでしょう」
「抱き上げたい……ぎゅっとしたい……」
エレスティアは、夫が震える両手を持ち上げていくのを困ったように眺める。
させてあげたいのは山々なのだが、医師に止められているのだ。
かわいそうなので他に何か夫に言ってあげられる優しい言葉はないかとエレスティアは考えるのだが、この状態があの日からずっと続いているので、アインスは容赦がない。
「圧迫は避けるように、とのことです。皇帝の初めての御子、エレスティア様にとって初めての妊娠ですから、何かあってはならないと、かなり慎重な対応が決定しています」