引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
 大会議で案に反対する者はいなかったそうだ。
 それはよかったとエレスティアが安心したところで、ジルヴェストが去っていった方と反対側の通路へとアインスたちが誘導し、執務室に向かう。
「今日も訓練の時間が取れなかったら、ごめんなさい」
「いいんですのよ。わたくしも皇妃付き第一侍女か、補佐官のごとく手伝えて嬉しいですわ。護衛にもなりますし」
「護衛なら私がいますが」
 エレスティアの隣を陣取ったアイリーシャの斜め後ろで、それを聞いて即、アインスが不服さを漂わせる。
 アイリーシャは引き続き、皇帝からエレスティアの心獣と魔法の訓練指導役を一任されていた。後宮への出入りの自由も与えられている。
 彼女は皇妃専属の護衛騎士、第二号を狙っているようだ。
 彼女の父親であるロックハルツ伯爵は、『嫁のもらい手がますます遠ざかるのでやめてほしい』と言っていた。彼女がシェレスタ王国から帰国してからは、ますます説得に苦労していると先日に聞いた。
「アインス様も、わたくしを推薦してくださらない?」
「しません。嫌です」
「ちょっと、今『嫌』とおっしゃいましたの? レディへの対応がなっていませんわね」
「レディとは? どちらに?」
 途端にアイリーシャの口から「あ?」と低い声が出る。
 顔は笑っているのに、目が笑っていない。エレスティアは困ったものの、この空気感が好きだなと思った時には「ふっ」と笑みをこぼしていた。
「あら、エレスティア様、いかがされましたの?」
「思い出し笑いですか? アイリーシャ嬢、昼食の際に笑わしていましたからね」
「あ、あれはっ、ピィちゃんがかわいかったから、つい年がいもなくかわいがりが出てしまっただけでっ」
 忙しさのあまり、ここしばらくは宮殿で過ごすことがほとんどだった。
 その際、皇妃にと与えられた執務室に軽食を運んでもらう。エレスティアが一人だと寂しいのでと誘ったら、アインスとアイリーシャが息ぴったりに『人払いを』と指示し、三人でランチタイムや菓子休憩を取ってくれるようになった。
「ふふっ、いいえ、いい友人に恵まれたなぁと思いまして」
 普通の妃であれば、望めない居心地のいい時間だ。
 前世でそれは身にしみている。
 アイリーシャとアインスが顔を見合わせ、照れくさかったのか、お互いばつが悪そうに視線を逃がす。
「……あんなにベタベタしていた皇帝陛下があまり来られないのでは、エレスティア様も心細いかと思ったのです」
 アイリーシャがごにょごにょと言った。
「エレスティア様が皇妃でいらっしゃるからといって、私は遠慮などいたしませんわ。いつだって好きな人に付き合いますわ」
「まぁ、息抜きも必要ですし。後宮でも三人でお茶をすることが増えましたからね」
「この前は知らせに来た警備兵の方も巻き込んで、楽しかったですわね。ピィちゃんの様子をじっくり見られて満足そうでしたし」
 回廊を抜けても三人、顔を見合わせながら話は弾む。
 このちょっとした移動もエレスティアにとって息抜きになっていた。
「ピィちゃんといえば、最近あまり見かけませんわね。なんだか寂しいですわ」
「まだ大王様のところだと思います。今日も空を散歩させる時間はなさそうだと相談したら、代わりに連れていくとおっしゃってくださいまして」
「あのお方も〝飛べ〟ますからね。不思議な存在ではあります」
 そう相槌を打ったアインスは納得顔でうなずく。
 古代王ゾルジアは、詠唱もなし、魔法が発動した気配もなしで、体を宙に浮かせる。そこに姿は見えているのに、ふわりと浮遊する際には実体がないようにも見える。
「まぁ小さい状態とはいえ、あの鳥も一応は心獣です。エレスティア様に危険がないと判断して、近くを気ままに飛び回っているのでしょう」
 心獣は優秀で強い魔法師が誕生する際、同時にその胸元から生まれてくる狼のような姿をした白い獣だ。
 心獣は主人であるその魔法師の体に収まりきらない魔力を保管する貯蔵庫であり、それを持っている魔法師は『強い魔法師』として分類される。
 心獣でありながら、小鳥化するとエレスティアの中に魔力を戻せるうえ、時には鳳凰の姿になり魔力を開放できるピィちゃんは、異例の心獣だ。
 主人の魔力である心獣は、徹底して主人を守った。
 生き物ではないので説得や命令を聞かせることはできず、主人の〝お願い〟に従わせることができるかどうかは訓練次第だ。アインスやアイリーシャの心獣も、必要ではない際には離れているようしつけられていた。
「皇妃様!」
 エレスティアたちの少し先、執務室のほうから騎士が走ってきた。
「何か急ぎのことでもありましたか?」
 外交部署で顔をよく見ていた騎士だったので、エレスティアは驚き、声をかける。
「外交大臣から至急お届けせよと」
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