引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
 そう告げて彼が差し出してきたのは、ファウグスト王国の第四王子、エルヴィオ・ファウグストから皇妃宛てに届いたという手紙だ。
 エルヴィオは今、この皇国との国交代表者となっている。
 エレスティアがバリッシャー砂漠に雨を降らせた一件で両国の親交が深まったのだ。そのため、ファウグスト王国とは、あの一件で貿易強化も早急に進められているところだった。
 彼の活躍のおかげでそれも早くに実現しそうだと、外交官たちも期待を膨らませている。ファウグスト王国に対する皇国内からの取引希望も殺到し、彼が窓口となってまとめてくれている。
「皇妃、もしくは皇帝以外は開封しないでほしい、早急に相談したいことがあるのだとのことです」
「何かしら……」
 告げてきた騎士の言葉が気になり、エレスティアはその場で手紙を開く。
「あ」
 そんな声を漏らしてすぐ、彼女は手紙を閉じた。
 急ぎ言伝を頼む用件はないと伝え、騎士を帰す。
 エレスティアはアインスとアイリーシャを連れ、すぐそばにあった資料保管庫に急ぎ入る。
「どうされましたの?」
「なんと書いてあったんです?」
 アイリーシャ、続いてアインスが同時に尋ねてきた。
「……エルヴィオ様は、大聖堂の地下から〝遺物〟の一つが失われたと……それ、今、ゾルジア大王様がつけている髪留めのことなのです」
 二人もまったく予想していなかったのか、目を丸くする。
 エレスティアが古代王ゾルジアを自分の最大の攻撃魔法として受け入れた瞬間、彼は髪留めで髪を後ろにまとめていた。まるでそれが当時の彼にとっての戦闘装束の一部だったかのようだった。
 あの髪留めはファウグスト王国で、遺体のない古代王ゾルジアの貴重な遺品として大聖堂の地下で厳重に保管されていた品の一つだ。
 大昔、この大陸は国境のない一つの大国だったという。
 偉大な古代王たちの歴史は語り継がれると共に、それぞれ出身地だとされている場所には古代王の名がついた大聖堂がある。その地下には墓と呼ばれている遺跡が存在しているそうだ。
 隣国のファウグスト王国には、古代王ゾルジアの墓代わりの遺跡がある。
 これまで国内では、彼にまつわる文献や装身具と思われる品が発見され、大聖堂の地下に保管されていた。
 そのうちの一つは髪留めだと話に聞いた。
 エルヴィオからの手紙によると、エンブリアナ皇国に送る文献の写しができたので原本を管理官が戻そうとしたところ、髪留めがなくなっていることが発覚したらしい。手紙には、エレスティアへの深い謝罪の言葉もつづられている。
「エレスティア様の所有物ではないのに、すごく謝罪されていますわね……」
 文面を覗き込んでいたアイリーシャが言った。
「以前、『次に訪問される際には大聖堂の地下にご案内します』とおっしゃっていたからではないでしょうか」
 そう横から告げてきたアインスを、アイリーシャが見る。
「そうなのですか?」
「私の記憶ではそうだったかと。手紙によると、王家は遺品の紛失について発表すべきか悩んでいるようですね」
 うかがうようなアインスの言葉に、エレスティアは罪悪感が増す。
 帰国後の慌ただしさで忘れていた。そのあとは初夜を迎えるようになったことへ意識が向いていたのも事実だ。
「私が動くまでは伏せておくということなので、助かりました」
「何かお考えが?」
「はい」
 エレスティアは、真っすぐアインスの視線を受け止めた。
「ファウグスト王国の方々は皆、ゾルジア大王のファンでとても尊敬なさっているのです。彼らに、今のゾルジア大王のことを教えて差し上げたら、とも思っていました。それなのに私、うっかりしていて……」
「仕方がありません。ようやく皆が安心できるようになったのですから」
 アインスの言葉に、うなずく。
 ドーランも魔力暴走の恐れがなくなったことにとても安心していると、のちの兄たちからの手紙に書かれていた。
「ジルヴェスト様に相談してみようと思います」
 それがよろしいでしょうと、アインスもアイリーシャも笑顔でうなずいてくれた。
 ただ、今週が祝いの本番だ。
 ジルヴェストがせっかく決めてくれた特別な日が、延期になったりしてはいけない。
 エレスティアは髪留めの一件についてエルヴィオに手紙で報告し、近いうちに会う機会をつくって説明するので心配しないでほしいという返事を出そうと考えた。
 待たせるのは申し訳ないが、進めるのは週明けになるだろう。

 迎えた祝日は、朝日が昇りきると同時に、派手な魔法の花火がエンブリアナ皇国の空に打ち上がる。
 皇帝夫妻の結婚記念日、三日間の祝宴の一日目だ。
 ジルヴェストとエレスティアの初夜の日だ。心獣を連れて地上と上空で隊列を組んだ豪華な護衛と、同じく立派な心獣を従えた参列者。
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