引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
 初めてのエレスティアに負担がないようにと、ジルヴェストはまずは一度だけと決めていたそうだ。
 そのせいか、なんとも長かった。
 そして、濃厚だった。エレスティアは情けないことに一度目が終わると同時に、意識を飛ばしたのだ。
(思い出したら恥ずかしいわ)
 朝に目が覚めた時には、ジルヴェストによって体は清められていた。
 同じく裸体だった彼に幸せそうに抱きしめられ、寝顔を見続けられていたと知って、起床時には悲鳴を上げたものだ。
(彼のおかげで体はつらくないわ……)
 初夜明けに、こうして紅茶の香りをゆっくりと楽しめているくらいには身心共に穏やかだ。
 初めての痛みを取るという上級魔法師の魔法のおかげもある。
 ――カタン。
 その時、何かが扉に軽くぶつかる音がした。
 侍女が戻ってきたのだろうかと目を向けてみると、入り口からふわふわの尻尾を揺らして、ジルヴェストの心獣が入ってきた。
「あら。ふふ、彼の代わりに様子を見に来てくれたの?」
 心獣は主人と感覚がつながっているそうだ。
 ゆえに、心獣は主人の気持ちや思考、行動も反映するといわれている。
 ピィちゃんは規格外の心獣だといわれているため、エレスティアはそれを感じたことはないが、気持ちが通じ合い心に寄り添ってくれているのは感じている。
 すると、案の定ジルヴェストが駆け込んできた。
「すまないっ、すぐ、もう少しで戻るからっ」
 まだ時間がかかるらしい。彼は入り口から飛び込むように寝室へとすべり込むと、出入り口の縁に手をかけてそう言ってきた。
「まぁ、わざわざそれを言いに一度戻られたのですか?」
「君が……触れることを許してくれる機会は貴重だ。俺は……シたい、し……」
 ジルヴェストの声が、赤面に伴って小さくなっていく。
 見ているエレスティアも、不可抗力で見る見るうちに頬を染めていた。
 彼が『まだまだ盛り』な男性であることは、昨夜に自覚している。エレスティアは情けないくらい、ついていけなかった。
 だから彼女も夫を想い、またすることを了承してこうしてベッドで待っているのだ。
「ふふ、私は大丈夫ですよ」
 必死に『待っていて』と伝えにきてくれたことを思うと、夫がどうにも愛おしくて笑みがこぼれる。
「本当にすまない。君が俺のせいで、まだ服が着れないというのもかなり申し訳なく……っ」
 裸体を指摘されて、エレスティアはまた頬の熱が復活した。
「そ、それはいいのです、ご用を先に済ませてきてくださいませ。わ、私は、休んでいることに忙しいと言いますか」
 顔がどんどん熱くなってきて変な言い方になってしまう。
「つ、つまりジルヴェスト様は、気になさらないでいいということです。私は自分の意思でこうして待っているわけで……だって、脱がすお手間をかけさせたくないというか。私だって望んでいるというか……」
 ジルヴェストが、ゆるゆると目を見開く。戻ってきた侍女たちが「まぁ」と微笑ましそうにして、入り口の手前で立ち止まった。
「この掛け布団も心地がいいですし……ジルヴェスト様の匂いがして安心もしますから、待つことは全然、問題などないのです……」
 昨夜、彼は言葉で気持ちを伝えようと努力してくれた。
 エレスティアは恥ずかしくてたまらなかったが、体に巻きつけた掛け布団をぎゅっと引き寄せて、彼女もきちんとすべてを伝えた。
 ジルヴェストがぶわっと耳の先まで真っ赤になった。なんとも珍しい反応だ。思わずエレスティアが見つめると、彼は恥ずかしかったのか、手で顔を覆ってしまう。
(何をお考えなのかしら、わからないわね……うん?)
 たいてい、こういう時、彼の心の声はうるさい。
 だが今日は、精神的にも見事に固まってしまっているのだろうか? 心獣からは何も聞こえてこない。
「あー、その……」
 ジルヴェストが、何やら考えるようにして声を出す。赤い顔が恥ずかしいようで、視線を右へ左へと逃がし、ガウンの胸元から覗くシャツを握りしめてもだえ、しばし間を置いて、顔からそろりと手を離す。
 彼の仔犬みたいに潤んだ目がこちらを向く。
 じっと見つめられたエレスティアは、見る見うちにさーっと頬の熱が下がっていくのを感じた。
「情けない姿を見せてしまったが、誤解しないでほしい。君の気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいになった。今すぐキスがしたいくらいだ」
「っ」
「だがそこで止められそうにないので――すぐに、用事を済ませてくる」
 ジルヴェストが、赤いのを隠すように顔をパッと背けて寝室から出ていく。
 微笑ましい、なんて愛されているのかと侍女たちが言いながら、待っている間に菓子をどうぞと言って運んでくる。
 だが、エレスティアはぎこちない動きで、心獣のほうに顔を向けていた。
(……ジルヴェスト様の心の声が、聞こえない!?)
 心獣は寝所の中央あたりを眺めていたが、エレスティアと視線が合うこともなく、何に満足したのか機嫌よさそうに尻尾を翻して主人を追って出ていった。
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