引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
一章 特別な祝いの宴が催されるようです、が事件発生!?
 皇帝夫妻が、新婚旅行でシェレスタ王国を訪れ、二週間滞在した。
 王国の首都陥落が危ぶまれたグレートドラゴンの群れによる奇襲の件──エンブリアナ皇国が魔獣を見事に討伐したことは、すぐオージニアス大陸の国々が知ることとなったようだ。
 新婚旅行から帰ると知らせがあったその日、帰国した皇帝と皇妃と共に姿を見せたのは、まるで対のような二匹の金色の心獣。
 大きな狼のような姿をした心獣、そして国始まって以来となる鳳凰の姿をした心獣だ。
 黄金色のその二匹を筆頭とした空の大行進に、皇国民たちは歓声を上げた。
 とはいえ宮殿から轟いた出迎えの声は、無事の帰国を喜んでいるだけではない。
「無事のご帰還を心よりお喜び申し上げます!」
「ご活躍も、大変お疲れさまでございました!」
「しかも魔力の不安定が解決されたとか! なんとめでたい!」
 一部の者たちは歓喜し、お祝いムード一色だった。
 それはシェレスタ王国から帰る際に、ジルヴェストが信頼する者たちへ送ったある手紙が原因だ。
 宮殿に降り立ったエレスティアたちに駆け寄った宰相は、「よかった、よかった」と嬉しそうな顔で涙ぐむ。帰国を聞きつけてわざわざ宮殿で待っていた国境部隊魔法師団のティーボ将軍も、大仰な喜びようで皇帝夫妻を出迎えた。
 二人の婚姻の現状を知っている者たちのあまりに大きな喜びの反応が、エレスティアは恥ずかしくてたまらなかった。
 歴代の皇帝で一位といわれている魔力量を持ったジルヴェスト・ガイザー皇帝。
 もしかしたら彼を超えるかもしれないといわれ、謎とされていたエレスティアの魔力。
 それについてジルヴェストは、シェレスタ王国で安定化したと伝えた。もう、何も心配はいらない、と。
【延期になっていた初夜を迎えられる、帰国次第に日程を考える】
 彼がシェレスタ王国から送った知らせは、つまりその吉報を含んでいた。そのため初夜をまだ済ませていないことを知っていた一部の者たちが、喜んだわけだ。

 シェレスタ王国での功績もあり、貴族たちからの帰国祝いもなんとも派手だった。
 帰国の挨拶も含めた式典、そして大広間で行われたパーティーのため着替えに追われたり、会場内では皇妃として相応の振る舞いにて臣下たちと挨拶をしたり――エレスティアが人々の輪から抜け出させたのは、午後四時のことである。
「皇妃様、大丈夫でございますか?」
「え、ええ……」
 廊下で合流した侍女たちにうかがわれ、エレスティアはどうにか顔にはあまり出さないよう呼吸を整える。
 前世では姫だったので、対応についての不安はない。
 だが、今世では引きこもりだ。大勢の人々の注目に晒されるというのは緊張がある。
 ジルヴェストのそばに置かれた妻で済むものではなく、彼と同じくらいエレスティアも対話を希望された。
(お兄様たちが加勢してくれて助かったわ)
 とはいえ、帰国早々だが予定は山積みで、まだ終わらない。
 気になっているであろう者たちに説明をすべく、用意を整えるためにもピィちゃんをアイリーシャ・ロックハルツに預かってもらっていた。
 彼女は伯爵令嬢で、軍人の魔法師として活躍している女性だ。エレスティアの魔法の指導係であり、そして友人でもある。
 エレスティアは急ぎパーティー用のドレスを脱ぐべく、侍女たちと別室へと移動する。
 侍女たちに手伝ってもらい着替えを済ませる。そして侍女たちをすべて連れ、後宮近くにある、宮殿で最も大きな貴賓室へと入室した。
「お、お待たせしてしまい申し訳ございませんっ」
 その貴賓室は皇帝が密な話し合いをするために設けられている部屋だ。
 すると、そこに待っていたのは父で公爵のドーラン・オヴェールをはじめとするエレスティアの家族で、同席を許可されたジルヴェスト付きの執事や使用人たちも脇に控えていた。
 魔法具研究局宮殿支部の者たちや、宰相や大臣たちや軍人たちも、パーティーの延長のような柔和な空気で出迎える。
「よい、よい。女性の支度には時間がかかるものだ」
 すぐそこの一人掛けソファにどっしりと腰を落ち着けていた大熊、ではなく大柄なドーランが気前よく言った。
「それも待ちきれないくらいの男なら、切り捨てよ」
 ドーランの笑顔が、何やら急速に肌寒いにものになる。
(ああ、ジルヴェスト様とのことを先に説明すると言っていたわね……)
 そのためアイリーシャは呼ばれていない。
 彼女には、古代王ゾルジアを紹介する必要があると事前に相談していた。
 古代王ゾルジアはエレスティアが使った大魔法『絶対命令』を使ったとされている、大昔にいた大王の一人だ。
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