引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
 初夜が迎えられていないことを知っていた者たち、そしてエレスティアの魔力暴走について不安をなくそうとジルヴェストと共に協力した者たち――。
 魔力暴走の不安がなくなったこと、その〝理由〟を明かす。
 それがジルヴェストの下した決断だ。
「〝召喚――古代王ゾルジア〟」
 エレスティアが口にすると、柔らかな風が起こり、次の瞬間、一人の男がそこに姿を現わす。
 金糸の刺繍が美しい上質な黒の衣装は、裾に向けてふわりと広がる、魔法使いのようなローブだ。その佇まいは賢者のようだった。
 二十代前半といった端正な顔立ちをした彼の、そっと開いた美しい瞳はエレスティアと同じ若草色。やや長い髪の色も彼女と同じハニーピンクであり、後ろで古い髪留めでまとめてある。
 誰もが立ち上がり、注視する。
「彼女の最大の攻撃魔法である〝ゾルジア大王〟だ」
 ジルヴェストの説明を疑っていたわけではないようだが、改めて彼から大王だと告げられ、誰もが息をのんでいた。
「古代王ゾルジアが最大の攻撃魔法……?」
「それはまた、とんでもないですな」
「やはり皇妃様の身に起こる事象は異例なことばかりですな」
 こんな魔法は見たことがないと誰もが口を揃えた。
 あくまでエレスティアの魔法であるので、暴走の危険性はない。
 そう誰もが思うことだろう。
 召喚魔法というのは、この大陸で共通した魔法で、基本的に呼び出された者は制限がかかって術者より強い魔法は使えないとされている。
 だが、相手は歴史でも有名な最強の大王だ。
 魔法師部隊の者たちの表情には緊張が見られる。
「しばらくは公表しないことに決めている。彼女にとっての最大の切り札であり、守りになるだろう」
「さようですな、皇帝陛下。皇妃様をまずお守りすることが先決です」
「国内のすべての魔法師が、皇妃様を支持しているかもわからない状況ですから」
「古代王本人が、となると、各魔法師たちにも動揺が広がるでしょう」
 あくまでエレスティアの魔法とはいえ、大王本人に違いない。
(実のところ好き放題魔法が使えるなんてわかったら、怖がる人も出てきそうね……)
 エレスティアとしても身内の反応を見つつ、しばらく公表しないというジルヴェストの考えには同感だった。
 とはいえ、宰相たちのほうは認識がまた違っているらしい。
 ゾルジア古代王は〝大王〟だ。引きこもり令嬢だった皇妃にとってはいい助言者でもある、と前向きな様子だった。
「願わくは、彼が攻撃魔法を使うような日が来ないことを祈るばかりです」
 この場ではエレスティアの〝力の秘密〟については公表されなかった。
 ――彼女の魔力の動きが魔法師たちとも、通常の魔法使いとも違っているのは、彼女が古代王と同じ魔力を持ち、魔法師とは違う魔法を使うからだ、と――。

 それについては、さらに絞られたごく一部の者たちに明かされた。
 アイリーシャがやって来た頃には半数以上の者たちが退出し、エレスティアの父のドーラン、宮殿にいた皇帝の護衛部隊のうちジルヴェストが厳選した者、ティーボ将軍を含む国内でも選りすぐりの魔法師たち――そして、カーター・バロックが率いる魔法具研究局宮殿支部の部員たちがいるだけだった。
「最大の攻撃魔法として古代王本人の召喚か! 面白い!」
 カーターはエレスティアが常に古代王ゾルジアを召喚できることになったことについて、大興奮していた。彼の部下であるビバリズたちも同様だ。
 すぐ、近くにいた軍人たちがツッコミを入れていた。
「何も面白くないぞ」
「最強の破壊兵器を連れているようなものだ」
 そう発言した者が、ハタと気づいたように口に手をあてた。
「申し訳ございません……大王というお方の前での発言には不適切でございました。お詫び申し上げます」
「よい。私はこの国の王ではない。それに破壊なら、得意なのも事実」
 室内に緊張が走る。
 エレスティアは気にして、ジルヴェストとは反対側の隣へと目を向けた。そこにいたのは古代王ゾルジアだ。
 見た目は若い。しかし表情の変化が乏しいことに加え、まとう〝王〟としての風格のせいか対面する人々を緊張させる。
(なじんでくれるかしら……)
 事前に打ち合わせてはいたが、古代王ゾルジアがうまくこの場を収められるかエレスティアは心配する。
「私は召喚された身だ。エレスティアが望まない破壊などはできない」
 古代王ゾルジアが、静かに目を伏せてそう述べた。
 するとカーターが場の空気をさらに解く。
「そもそもゾルジア大王は彼女の心獣のような存在になっているのだというから、危険性はないかと」
「心獣も心獣で謎が多いがな……」
「『主人に害を与えなければ大丈夫』という基本を、君らはよく知っているはずです」
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