引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
 カーターはにっこりと笑いかけ、その話を締めた。
 ――エレスティアに悪意を持つ者はこの中にはいないな?
 と牽制も兼ねてそう言ったのだろう。軍人たちは「もちろんです」と小さく答えたのち、静かになる。
(研究が大好きな引きこもりというけれど、私よりも空気を読むのが上手だわ)
 髪もぼさぼさにし、分厚い眼鏡をかけていても、軍人を威圧できるくらいにカーターは場数も踏んできたのだろうとエレスティアは感じた。
「魔法に関しては魔法師のものとはまったく違う」
 軍人たちの疑問に答えるように、ジルヴェストは真っ向から彼らの視線を受け止めたうえで、真摯な目でそう告げていた。
「基礎以上のことはゾルジア大王が制御しながら彼女に教えていくそうだ。エレスティアは、我々と違って魔法学を幼少期から学んできたわけではない。学ぶには時間もいるだろう。魔法を安定して使えるまで魔力が古代王のものと同じであることについては、秘密にしていてほしい」
 ジルヴェストは追って、そうお願いをした。
 皇帝がそのように頼むことはこれまでなかった。そのように信頼されていることが彼らの胸を打ったのか、集まった者たちは「もちろんだ」と力強く答えていた。
 魔法の使い手としては皆エリートだけあって、助言を求められた際には支えていく、とも約束した。
 後宮の侍女たちも、魔法を学んでいる際の人払いなどをサポートしていくと答えた。
 エレスティアの魔力について明かされ、今後の対応について確認が終わったところで、解散となった。
 今後の教育について話したい。
 そうジルヴェストが言い、アインスとアイリーシャ、そしてカーターが残るよう指示される。
 もちろんこれも計画通りだ。ティーボ将軍は皇帝不在の場を任せてあるバリウス公爵に共有してくるよう、ジルヴェストから指令を受けて貴賓室を後にしていた。しかしバリウス公爵には、帰国前のジルヴェストによって、すでに別途特殊な消滅魔法がかかった手紙で詳細説明が送られている。
 ティーボ将軍たちが出ていったのち、カーターが待っていたかのように質問した。
「……えーと、親愛なる我らが皇帝陛下? これが普通の召喚魔法とは異なる点について、確認させてくださるのでしょうか」
「そうだ。専門家の視点でいえば、あの説明では辻褄が合わないことにも気づくだろう」
「あ、だから残してくださったのですね」
「あとで探りを入れられるのも厄介だ。何より、エレスティアの魔法の基礎を見てもらってもいるお前たちには正しく把握していてもらいたい」
「それは……ご配慮に感謝いたします」
 外から締められた扉をちらりと見やり、それからカーターが背を起こす。視線が再び合ったところでジルヴェストが告げる。
「魔法具研究局宮殿支部には、引き続きエレスティアの魔法学の指導を担当してもらう。周囲の者たちもその認識でいる」
「はぁ、まあ彼女のことを正確に把握していないと、学ばせるのも難しいでしょうねぇ。外部講師を選定するわけにもまいりませんし、座学は引き続きうちで、基礎訓練も同じく行うということにつきましては承知しております。何かあれば、アインス殿が対応すると取っても?」
「話が早くて助かる、まさにその通りだ――まぁ、とはいえ」
 ジルヴェストが独り言のような声量で続ける。
「エレスティアの体内で起こる魔力の異変については、ゾルジア大王が対処する。安心しておけ」
「……そう、でございますか」
 カーターの口元が引きつる。
 彼の声のあと、しばし沈黙が漂った。
 支部長のカーターに続き、副支部長ビバリズを含めた支部員たちがゆっくりと古代王ゾルジアを見る。
「えーと、一つお聞きしてよろしいでしょうか? ゾルジア大王」
「よい」
 カーターが部下たちの代表のようにして問いかけた。古代王ゾルジアは、落ち着いた表情のまま『なんだ?』とでもいうように軽く首をかしげてみせる。
「今、皇帝陛下から召喚の有無にかかわらず、あなた様は自由自在に出現できるとうかがったのですが、それだと先程の『何もできない』というのは、違ってくると思うんですよね?」
「もちろん、嘘だ」
 場に、またしても重い沈黙が流れた。
「……それでは、破壊は……」
「可能だ」
 あっさりと古代王ゾルジアから返答をもらったカーターが、口を閉じ、ため息をこらえるような顔をした。
「とんでもないでしょう」
「ええ、とんでもないですね」
 アインスの言葉に、カーターが悩む表情で相槌を打つ。
「ええ、実のところですね? 私は皇妃の体に憑依した際の魔法からしても『もしやそうかな~』とか思っていたので、想定の範囲内でしたが……召喚魔法とはまた違いますね……召喚というよりは、よみがえりに近いのでは……?」
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