引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
そのたび彼は、エレスティアの話を聞いた。
「褒められても、君はどこか浮かない気持ちだ」
心獣と似たような存在になっているため、彼はエレスティアの感情や思考の動きに敏感なようだ。
「私は……前世で後継者の〝姫〟として生きていました。その経験がいきているだけですから……それを、皆様は知りません」
「後ろめたそうだな」
「それはそうです。家族にも誰にも……前世の記憶のことは話していません」
ジルヴェストの心獣から、彼の心の声が聞こえることだって打ち明けられないでいる。
「ふむ。私も羊飼いから生まれ変わったことなど、誰にも話していない」
「そうなのですか?」
「そんなことは魔法の常識からしても〝ありえない〟からだ。だから君も悩んでいるのだろう?」
優しく吹き抜けた夜風に、軽く後ろでまとめられた彼の髪が柔らかくなびく。
エレスティアを見つめる瞳は静けさを漂わせて感情が見えない。
「は、い……」
「無理に話す必要はない。私でさえ、世の常識を軽視することはない。話したところで我々がどうして二度目の人生を歩んでいるのか、それを理解できる者はいない。だから私は誰にも話さなかった」
確かにその通りだとエレスティアも思えた。
エレスティアには〝姫〟だった頃の記憶がある。
それは皇帝の第一側室に決まった際、突如としてよみがえった。
恐らくは『王の妻になりたくない』という恐怖があったからだろう。
隣国との戦争で敗北し、終戦と和平の条件として正妻の指名を受けたことが始まりだった。十五歳で敵国の『王』へと嫁ぎ、そして十八歳で毒にあたって死んだ前世――。
(初めは、強烈な記憶を思い出していたね)
今は、違う。
日を追うごとに、姫だった頃の風景が一つずつ見え始めている。
何気なく目に収めていた風景、そして当時の『彼女』が抱いた怒りや、国民を守りたいという強い思いも断片的に戻り始めていると感じる。
「私は、気づけばそこにいた、という感じだった。ただ、私と君に共通点があるのは、面白いな」
「はい」
面白い、と口にした古代王ゾルジアの感想に、少し胸が軽くなる。自分だけではないという気持ちがエレスティアを少し楽にしているのかもしれない。
遠い昔、一人でこの大陸を一つの大国として統べていた最強の王のことを、皆〝古代王〟と呼んだ。
その中でも歴史にあまり残されておらず、肖像画すらない謎が多い王として語られているのが、三人の王が統治したといわれている【謎の三百年】の後半期、最後の王だったといわれている古代王ゾルジアだ。
――最強の古代王。
それだけでなく、謎に包まれた王ということもあって彼のファンは多いようだ。
大魔法『絶対命令』を使っていたことでも知られているが、エレスティアは同じ魔法を使えるだけでなく、彼とは『前世の記憶を持っている』という共通点があった。
そして魔力も同じだ。
思い描けば魔力は反応し、望む『魔法』へと形を変える。
(だから彼は独りを選び、感情をできるだけ殺した……)
エレスティアの胸に、チリッと罪悪感が込み上げる。
彼をこの世に呼び戻した。
攻撃できないとはいえ、押しつける形になってしまってはいないか。
「ん? また、気にするのか」
どきっとして、エレスティアは遠慮がちに彼を見つめ返す。
「……なんでもお見通しなのですね」
「私は君を通してこの世によみがえった。心獣と近い存在になっているとは話しただろう。もちろんプライバシーは守っている」
心獣は魔力を預かってくれているだけでなく、感情も察知できる。主人の意思を反映するため、訓練が甘いと制御できず心獣が先走って攻撃することもあった。
「私はこうして王ではなく、一人の男として毎日を楽しく過ごしている。それは、君のおかげだ」
古代王ゾルジアが、柔和に微笑みかけてきた。
「君は、君が望むような人生を得るといい。あの小鳥と同じく、私も、君が自分の人生を終えるその時まで、共にあろう」
「ありがとう、ございます……」
少し照れ臭くなって小さな声で答えた。
無表情でいることが多いが、微(かす)かに浮かべた彼の笑みは、なんとも美しい。ジルヴェストとは毎日同じベッドで寝起きしているが、超絶美しい異性の顔など、まだ慣れなかった。
アインスたちからは『同じ顔なのにな……?』と言われているが、古代王ゾルジアが性別を変えた自分、という感想にはエレスティアは実感がなかった。
「それから、改めておめでとうを伝えておこう」
「えっ?」
「祝いの日が確定したとか」
魔力暴走の危険がなくなったため初夜が行われることになった。それに関して本日あった『吉報』を思い出し、エレスティアは思わず顔がほころぶ。
「ありがとうございます」
「褒められても、君はどこか浮かない気持ちだ」
心獣と似たような存在になっているため、彼はエレスティアの感情や思考の動きに敏感なようだ。
「私は……前世で後継者の〝姫〟として生きていました。その経験がいきているだけですから……それを、皆様は知りません」
「後ろめたそうだな」
「それはそうです。家族にも誰にも……前世の記憶のことは話していません」
ジルヴェストの心獣から、彼の心の声が聞こえることだって打ち明けられないでいる。
「ふむ。私も羊飼いから生まれ変わったことなど、誰にも話していない」
「そうなのですか?」
「そんなことは魔法の常識からしても〝ありえない〟からだ。だから君も悩んでいるのだろう?」
優しく吹き抜けた夜風に、軽く後ろでまとめられた彼の髪が柔らかくなびく。
エレスティアを見つめる瞳は静けさを漂わせて感情が見えない。
「は、い……」
「無理に話す必要はない。私でさえ、世の常識を軽視することはない。話したところで我々がどうして二度目の人生を歩んでいるのか、それを理解できる者はいない。だから私は誰にも話さなかった」
確かにその通りだとエレスティアも思えた。
エレスティアには〝姫〟だった頃の記憶がある。
それは皇帝の第一側室に決まった際、突如としてよみがえった。
恐らくは『王の妻になりたくない』という恐怖があったからだろう。
隣国との戦争で敗北し、終戦と和平の条件として正妻の指名を受けたことが始まりだった。十五歳で敵国の『王』へと嫁ぎ、そして十八歳で毒にあたって死んだ前世――。
(初めは、強烈な記憶を思い出していたね)
今は、違う。
日を追うごとに、姫だった頃の風景が一つずつ見え始めている。
何気なく目に収めていた風景、そして当時の『彼女』が抱いた怒りや、国民を守りたいという強い思いも断片的に戻り始めていると感じる。
「私は、気づけばそこにいた、という感じだった。ただ、私と君に共通点があるのは、面白いな」
「はい」
面白い、と口にした古代王ゾルジアの感想に、少し胸が軽くなる。自分だけではないという気持ちがエレスティアを少し楽にしているのかもしれない。
遠い昔、一人でこの大陸を一つの大国として統べていた最強の王のことを、皆〝古代王〟と呼んだ。
その中でも歴史にあまり残されておらず、肖像画すらない謎が多い王として語られているのが、三人の王が統治したといわれている【謎の三百年】の後半期、最後の王だったといわれている古代王ゾルジアだ。
――最強の古代王。
それだけでなく、謎に包まれた王ということもあって彼のファンは多いようだ。
大魔法『絶対命令』を使っていたことでも知られているが、エレスティアは同じ魔法を使えるだけでなく、彼とは『前世の記憶を持っている』という共通点があった。
そして魔力も同じだ。
思い描けば魔力は反応し、望む『魔法』へと形を変える。
(だから彼は独りを選び、感情をできるだけ殺した……)
エレスティアの胸に、チリッと罪悪感が込み上げる。
彼をこの世に呼び戻した。
攻撃できないとはいえ、押しつける形になってしまってはいないか。
「ん? また、気にするのか」
どきっとして、エレスティアは遠慮がちに彼を見つめ返す。
「……なんでもお見通しなのですね」
「私は君を通してこの世によみがえった。心獣と近い存在になっているとは話しただろう。もちろんプライバシーは守っている」
心獣は魔力を預かってくれているだけでなく、感情も察知できる。主人の意思を反映するため、訓練が甘いと制御できず心獣が先走って攻撃することもあった。
「私はこうして王ではなく、一人の男として毎日を楽しく過ごしている。それは、君のおかげだ」
古代王ゾルジアが、柔和に微笑みかけてきた。
「君は、君が望むような人生を得るといい。あの小鳥と同じく、私も、君が自分の人生を終えるその時まで、共にあろう」
「ありがとう、ございます……」
少し照れ臭くなって小さな声で答えた。
無表情でいることが多いが、微(かす)かに浮かべた彼の笑みは、なんとも美しい。ジルヴェストとは毎日同じベッドで寝起きしているが、超絶美しい異性の顔など、まだ慣れなかった。
アインスたちからは『同じ顔なのにな……?』と言われているが、古代王ゾルジアが性別を変えた自分、という感想にはエレスティアは実感がなかった。
「それから、改めておめでとうを伝えておこう」
「えっ?」
「祝いの日が確定したとか」
魔力暴走の危険がなくなったため初夜が行われることになった。それに関して本日あった『吉報』を思い出し、エレスティアは思わず顔がほころぶ。
「ありがとうございます」