引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~4
 エレスティアは、ジルヴェストを安心させられたことが嬉しかった。
 彼のほうは、夫婦の儀を行えることをかなり喜んだようだ。
『素敵な初夜にする。喜ばせたいので、任せてくれないか』
 そう、帰国した夜にジルヴェストからベッドの上で言われた。
 日程についてもすべてを任せると、エレスティアは答えていた。
 そうしたら今日、大会議でなんと二週間後に祝日がつくられることが決定したのだ。
「三日間が休日になる、とか」
「はい。どうしてそうなのかはまだ詳細は知らされていませんが、皆様、私には秘密にしたいようです。ですから、当日に、ジルヴェスト様から聞きますと言いました」
 古代王ゾルジアの目が優しい空気を帯びる。
「婚姻の儀にしては大袈裟だが、いい王だな」
「はい」
「いい、夫だ」
「私も、そう思います」
 エレスティアは、噛みしめるように答えた。
「国をあげての思い出を君に贈るつもりなのだろうな。その『祝いの日』とやらが、楽しみだな」
「ええ、楽しみです」
「体がつらければ言うといい。心獣とはいえ、小鳥の状態では君を気遣えぬだろう。その時は、しばし私があれを見ておこう」
「その時にはお願いするかもしれません。一応アイリーシャ様が早朝に来てくださるそうで――」
 異性である古代王ゾルジアとこんな会話をして、普通ならば恥じらうところではあるのだが、不思議と緊張もなかった。
 今はただ、それ以上に喜びも感じている。
 ジルヴェストがどんな特別な日を考えてくれるのか、エレスティアはただただ楽しみだった。

 祝日が二週間後に設けられるという知らせと同時に、皇帝と皇妃の結婚記念の祝宴について発表された。
 週末の休みと合わせて、三日間祝日が続く。
 共に祝ってほしいと皇帝は知らせを出し、国民たちは国中での祭りにしようという彼の言葉に沸いた。
 これは商品も売れるぞと各商店の店主ものりのりで、国民たちは景気がよくなるといってその祭りに大賛成だとか。国の全土での祭りだと貴族たちからの評判もいいらしい。
 さすがはジルヴェストだとエレスティアは思った。
 一週間も経つと、祭りに向けて準備が進み、王都は祝いムード一色に染まった。
 今週に開催日を迎えるとあって、店だけでなく人々も賑わっている。
 国民一人ずつが少なからず魔力を持っている国柄、魔法で作られた飾りつけは、地上から空までを彩って、なんとも鮮やかだ。見ているだけでエレスティアもわくわくした。
「一晩でこんなに風景が変わってしまうなんて、すごいわ……」
 公務の合間の休憩、ジルヴェストに宮殿の二階へと連れてこられたエレスティアは、回廊からの眺めに感動した。
 遠くの町の風景を眺めていても活気が伝わってくる。
 前世、エレスティアは自分の国を愛していた。国民の笑顔が、喜びが、あの頃のように彼女の胸を熱くした。
「喜んでくれたか?」
「はいっ、とても嬉しいです」
 隣からジルヴェストが頭を下げて覗き込んでくる。エレスティアは思わずレディとしての作法も忘れて、満面の笑みを向けた。
「最高のお祝いを、ありがとうございます」
 すると聞き届けたジルヴェストが、口元を手で覆った。
『嬉しい、たまらん』
 彼の頬は少し赤い。エレスティアは「あ」と察し、固まる。
 聞こえてきたのは彼の〝心の声〟だ。
 そう理解し、パッと回廊の入り口のほうを見ると、金色の毛並みをした心獣がいつの間にか降り立っていた。
『この笑顔を見るためにがんばって、よかった』
 心獣から、ジルヴェストの心の声が聞こえる。
 わかってはいたが身構えてしまう。
 それはエレスティアが、三日間の祝日の初日にある初夜を意識してしまっているせいだろう。
(まさか最中に彼の思考が全部聞こえてきたりは……ううんっ、考えないでおきましょうっ)
 きっと、そんな余裕なんてなくなるはず。
 そう考えたエレスティアは顔が熱くなった。
「どうした? 少し疲れが出ただろうか」
 エレスティアの様子に気づいたのか、ジルヴェストが彼女の火照った頰にそっと触れた。彼の大きな手のひらの温もりを感じ、エレスティアはますます頬を熱くした。
「ち、違います。ですから、ご心配なく……」
「心配はする。俺の分の執務もかなり受け持ってくれているだろう」
「い、いえ、ジルヴェスト様はこのたびの準備でさらに忙しくされていますから」
 逃れようと一歩身を引くが、彼はその分詰めてくる。
「エレスティア、無理があったら言ってもいいんだ。君があまりに完璧に執務を行うので側近たちも協力するどころか、最近は頼っている。君は優しい人だ、押しつけられていることがあるのなら――」
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