†鑑査委員制度†
椿千里は数秒何か真顔で考えた素振りを見せた後、俺の方へと歩み寄る。
「どうしたの透くん?」
「今日の事でちょっと・・・ごめん、もしかして邪魔したかな?」
「いや、大丈夫。で何だって?」
椿は人懐こい笑顔を浮かべる。もしかしたら作り笑いかもしれなかったが、ひとまずその表情に安堵する。
「僕、椿くん達の前にちょっと先約があるんだ。だからそれを伝えに」
椿千里は俺が手にしているプリントに一瞥をくれると、あぁと唸り、頷いた。
「分かった。どれくらいかかりそう?」
「たぶん小1時間は掛かると思う」
「OK、じゃミコトと相談しとくよ。取りあえず・・・そうだなぁ用事が済んだらまたD組に来てくれる?」
「分かった。じゃそうする」
「て言うかさぁー透くん。千里でいいって言っただろ?」
あぁ・・・そう言えば。
「俺、自分の名字ってあんまり好きじゃないんだ」
女の子みたいだしさー。そう付け加えて相変わらずどこまで本気か分からない声音で椿千里は答える。
「そうなんだ。でも僕は椿っていいと思うけど?花の名前で綺麗だし、椿く・・・千里くんには似合ってると思う」
「うわ。まるっきりミコトと同じ風に言わないでよ」
椿千里は軽くうつむき、目を三角にした。
彼にしては珍しく、一目で感情の吉備が窺える。
これはもしや照れているのかもしれない。
「あいつなんて『椿の方が綺麗でいいわ』何て言って、俺が散々名前で呼べって言っても直らないんだぜ?千里って付けた俺の両親に喧嘩売ってんのかっつー話だよ」
早口でそう続けた後、そこで椿千里はお得意の喉を鳴らるツクツク笑いをした。
その受け答えからはすでに、再び感情を読めなくなっていた。
それからお互い端的に挨拶を済まし、俺たちは別れた。
声をかけたときの椿千里の様子に少し後ろ髪を惹かれる思いだったが、俺は取りあえず目的を果たすべく職員室へ向かう。