洛陽夜曲

再会⑤

長い沈黙の末、鈴華が震える唇を割り、静かに、
だが確かな決意を込めて言葉を紡いだ。

「私も……京司さんの傍にいたい。あなたの隣にさえいられれば、
私、それだけで……」

その震えるような告白が鼓膜を震わせた瞬間、京司の表情が劇的にほどけた。
まるで、厚い雲の隙間から一筋の強烈な光が射し込んだかのように。
暗く沈んでいた彼の瞳に、一気に鮮やかな色彩が宿った。

「……けれど、私は結局、
父が大金と引き換えに差し出した“商品”に過ぎないんです。
私の意志ひとつで、六穣会という場所から消えることなんて……
できっこないんです」

鈴華の声は、足元の闇に吸い込まれるように弱々しかった。
抗えない過去に縛られ、未来をあきらめきった、乾いた響き。 
だが、それを断ち切ったのは、京司の剥き出しの熱量だった。

「君という人間に、金で値打ちがつくなんて思うてへん!……けどな、
もし金で話がつくっていうんなら、いくら積んでも構わへん。端金や」

低く、けれど心臓の奥まで震わせるような強烈な言葉。
京司の瞳には、打算も躊躇もなかった。
あまりに真っ直ぐで、暴力的なまでの献身。 
鈴華は息を呑み、言葉を失った。
差し出された救いの手が、今の彼女にはただ、眩しすぎて恐ろしかった。

鈴華のさらなる抗弁を封じるように、
京司は吸い寄せられるようにその唇を重ねた。

吹き抜ける秋風が二人の輪郭をなぞり、
季節の移ろいを告げる乾いた空気が周囲を包み込む。
時の刻みを忘れさせるほどに深い、静謐な抱擁。
どれほどの刹那が流れただろうか。
やがて、示し合わせたような名残惜しさをもって、
二人の吐息は静かに分かたれた。

京司は逸らすことのない、射抜くような眼差しを鈴華に注ぐ。
その大きな掌が、彼女の柔らかな頬の温もりを慈しむように
そっと包み込んだ。

「近いうちに、必ず槇村会長に時間をもらうて話に行く。……だから」

「俺を信じて、待っててくれへんやろうか?」

京司のその言葉は、秋の風音に溶けていくような静かな決意を秘めていた
< 68 / 70 >

この作品をシェア

pagetop