洛陽夜曲
再会⑥
鈴華の返答を待つ数瞬、京司にとっての時間はその歩みを止め、
凝縮された沈黙は永遠の静寂へと姿を変えた。
秋の風が、彼女の艶やかな黒髪を何度も乱していく。
その風がふっと途切れた瞬間だった。
鈴華が顔を上げ、その強い眼差しで京司を真っ直ぐに射抜いた。
「……待っています。京司さんが私を迎えに来てくれるのを。
いつまでだって、ずっと」
京司の顔に、差し込む朝光のような輝きが弾けた。
渇望していた鈴華の言葉が、彼の胸の奥で歓喜の調べを奏でる。
「ほんまか? ほんまに待っといてくれるんやな?」
問う声は、確信を恐れるように、
それでいて抑えきれない熱を帯びて震えていた。
鈴華は、淡い紅を刷いたような頬を伏せ、慈しむように小さく頷く。
その瞬間、京司の腕に込められた力は、彼女という存在を二度と離さぬよう、
その温もりを心に深く刻みつける誓いのようであった。
「けれど……。もし父が許さないと言えば、
どうか私のことは……忘れてください」
絞り出すような鈴華の声音は、
震える唇から零れ落ちる端から秋の風に溶けていくようだった。
その表情には、断腸の思いが刻まれている。
「諦められるわけ、あるかい!」
刹那、京司の逞しい腕が彼女の肩を強く引き寄せた。
指先に込められた確かな力が、
女の華奢な骨格を通してその覚悟を伝えてくる。
「何度撥ね付けられようと、俺は決して手を離さへん。
執念やと言われても、君を諦めることなんてできへんのや」
至近距離で見つめられる瞳。そこから放たれる圧倒的な熱量に、
鈴華は息を呑み、たじろぐ。
けれど、自分を縛り付けていたはずの諦念が、
彼の深い愛情に溶かされていくのを感じていた。
言葉にできないほどの熱に包まれながら、鈴華はただ、
胸の奥から溢れ出す静かな幸福に、身を委ねるしかなかった。
黄昏の残光が、神野の屋敷へと続く道を淡く染め上げる。
二人の足取りは、零れ落ちる砂時計の砂を惜しむかのように、
どこまでも緩やかだった。
終わりを告げようとするつかの間の逢瀬。
沈黙を破ったのは、鈴華の震えるような声だった。
「……貴方と京都で紡いだ刻は、私にとっては宝物みたいな時間でした。
その記憶を胸に抱きしめてさえいれば、
この先も一人で生きていける……そう信じていたはずなのに」
ふと立ち止まり、鈴華は京司の瞳をじっと見つめた。
その瞳には、夕闇に溶けゆく切なさと、抑えきれぬ情念が揺らめいている。
「どうやら私、欲張りになってしまったようです……」
自嘲気味に、けれど愛おしげに零された微かな微笑。
その無垢で残酷なまでに美しい表情に、京司の硬い面持ちも、
春の陽に解ける雪のように優しく崩れていった。
凝縮された沈黙は永遠の静寂へと姿を変えた。
秋の風が、彼女の艶やかな黒髪を何度も乱していく。
その風がふっと途切れた瞬間だった。
鈴華が顔を上げ、その強い眼差しで京司を真っ直ぐに射抜いた。
「……待っています。京司さんが私を迎えに来てくれるのを。
いつまでだって、ずっと」
京司の顔に、差し込む朝光のような輝きが弾けた。
渇望していた鈴華の言葉が、彼の胸の奥で歓喜の調べを奏でる。
「ほんまか? ほんまに待っといてくれるんやな?」
問う声は、確信を恐れるように、
それでいて抑えきれない熱を帯びて震えていた。
鈴華は、淡い紅を刷いたような頬を伏せ、慈しむように小さく頷く。
その瞬間、京司の腕に込められた力は、彼女という存在を二度と離さぬよう、
その温もりを心に深く刻みつける誓いのようであった。
「けれど……。もし父が許さないと言えば、
どうか私のことは……忘れてください」
絞り出すような鈴華の声音は、
震える唇から零れ落ちる端から秋の風に溶けていくようだった。
その表情には、断腸の思いが刻まれている。
「諦められるわけ、あるかい!」
刹那、京司の逞しい腕が彼女の肩を強く引き寄せた。
指先に込められた確かな力が、
女の華奢な骨格を通してその覚悟を伝えてくる。
「何度撥ね付けられようと、俺は決して手を離さへん。
執念やと言われても、君を諦めることなんてできへんのや」
至近距離で見つめられる瞳。そこから放たれる圧倒的な熱量に、
鈴華は息を呑み、たじろぐ。
けれど、自分を縛り付けていたはずの諦念が、
彼の深い愛情に溶かされていくのを感じていた。
言葉にできないほどの熱に包まれながら、鈴華はただ、
胸の奥から溢れ出す静かな幸福に、身を委ねるしかなかった。
黄昏の残光が、神野の屋敷へと続く道を淡く染め上げる。
二人の足取りは、零れ落ちる砂時計の砂を惜しむかのように、
どこまでも緩やかだった。
終わりを告げようとするつかの間の逢瀬。
沈黙を破ったのは、鈴華の震えるような声だった。
「……貴方と京都で紡いだ刻は、私にとっては宝物みたいな時間でした。
その記憶を胸に抱きしめてさえいれば、
この先も一人で生きていける……そう信じていたはずなのに」
ふと立ち止まり、鈴華は京司の瞳をじっと見つめた。
その瞳には、夕闇に溶けゆく切なさと、抑えきれぬ情念が揺らめいている。
「どうやら私、欲張りになってしまったようです……」
自嘲気味に、けれど愛おしげに零された微かな微笑。
その無垢で残酷なまでに美しい表情に、京司の硬い面持ちも、
春の陽に解ける雪のように優しく崩れていった。