音のない世界で、君に恋をする。
風に乗って、タバコの煙がこっちへ流れてくる。
タバコは正直、好きじゃない。
お父さんが吸っていて、匂いで思い出してしまうから。
だけど、湊さんのタバコはなぜか嫌じゃなくて、少しだけかっこいいとさえ思って、無意識のうちにじっと見つめてしまっていた。
「嫌いか?」
私の視線に気づいたらしい。
小さく首を振ると、まだまだ吸えそうな長さの残るそれを灰皿に押し潰した。
「帰るか」
そう言って立ち上がった彼の言葉に、さっきのお父さんとお母さんの会話が蘇ってきた。
めんどくさそうな顔のお父さん。
私のためというより、自分のためのお母さん。
“帰りたくない”
本当はそう言いたかったけど、そんなことを言えば迷惑をかけるに決まってる。
何も答えられずにいると、湊さんはまた少しだけ目を細める。
「……来い」
怒るわけでもなく、呆れるわけでもなく、ただ短くそう言った。