音のない世界で、君に恋をする。

ふたりの場所




次の日、教室に入ると、少しだけ視線を感じた。



それはきっと、昨日の自己紹介で“耳が聞こえない”と明かしたから。



私に近づいてくる人なんていなくて、あっという間にクラスから浮いてしまった気がする。





長かった午前中の授業が終わって、やっと昼休み。



休み時間にちらちらこっちを見ながら話してる人が何人かいて、目が合う度に、私のこと話してるのかな、なんて考えて居心地が悪かった。





お弁当を抱えながら教室を出たあと、誰も見ていない隙を狙って、上に続く階段へ向かった。





あの日———“耳無し”と呼ばれて以来、昼休みは屋上で過ごすようになった。



本当は立入禁止だけど、誰も近寄らない屋上で、ひとりの時間を過ごすのが好きだった。





初めての高校の屋上に少しだけドキドキしながら、立入禁止と書いてあるロープを跨いで、階段を上る。





扉を押すと、春の光が一気に広がった。



桜が、グランドの向こうで揺れている。



ここなら、誰もいないし、誰にも迷惑をかけない。



フェンスの近くに座って、お弁当を広げ、卵焼きを口に運ぼうとしたとき、ガチャ、と扉が開くのが見えた。


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