音のない世界で、君に恋をする。
夜は、昼よりも静かだ。
私の世界はいつも静かだけど、夜は“みんなの世界”も静かになるから、少しだけ楽だ。
ダイニングテーブルに向かい合って座るお父さんとお母さん。
私はお母さんの横に座っている。
ごはんを食べながら、口が動いていた。
たぶん、私のことを話している。
「進路」
「支援学校」
「普通校は無理」
そんな単語が見えて、唇を噛んだ。
“無理”
その言葉には、慣れている。
お父さんの口癖だった。
お父さんは、私の耳が聞こえなくなってから、私とはほとんど喋らなくなった。
聞こえないから話しかけても無駄だと思っているのか、それとも、めんどくさいだけなのか、本音は分からない。
お父さんが私を見て、何か言う。
その口の形が、少しだけ歪んで見えた。
“聞こえないくせに”
そう言った気がした。
実際に言ったのかは分からない。
でも、そう見えた。
私は立ち上がって、
「……少し、出かけてくる」
自分の声が大きいのか小さいのか分からないまま、家を出た。