音のない世界で、君に恋をする。
夜風は冷たい。
春の夜は、まだ少し肌寒かった。
スウェット一枚で出てきてしまったことを、少し後悔した。
コンビニの明かりが眩しい。
私はあてもなく歩いた。
どこか遠くへ行けるわけじゃない。
ただ、家にいたくなかった。
繁華街の方へ来てしまったことに気づいたのは、ネオンが増えてからだった。
人が多い。
たくさんの口が動いている。
笑っている。
でも、音はない。
「ねぇ」
下を向きながら歩いていると、急に、目の前に人が立った。
顔をあげると、二人組の男の人がいた。
何やら笑っている。
「一人?」
「どこ行くの?」
「てか、かわいくね?」
何を言っているのか分からなくて、小さく首を振った。
怪しい人なのだけは分かる。
踵を返そうとすると、腕を掴まれた。
すごく冷たくて、強い。
体が、小さく震える。
「ちょっとくらい良いじゃん」
口がそう動いた。
怖い……。
声を出せばいいのに。
だけど、自分でもちゃんと喋れているか分からないのに、誰かに届くかなんて分からない。