花束に囲まれた君が残したもの。

ー空の音色ー

授業が終わり、僕はカバンに荷物を詰めて、家路を歩く。
みんなは部活とかもあり、忙しそうにしていた。

なんととなく今日はのんびり帰りたくて、いつもとは違う道を歩いた。

道の先は川岸へと繋がっていて、そこにはハギの病院がある。以前散歩した道だ。
久しぶりにハギに会いに行こうかなと病院に寄ることにした。

歩いて少し経った頃、見た事のある姿があった。
 
「…ツユちゃん?」

彼女は川岸の原っぱで座りながらギターを弾いていた。

「あれ、ツッキー、なんでここにいるの?」
ツユちゃんは振り返って言った。

今日は雲の流れが早いせいか、ツユちゃんに日差しが当たったり当たらなかったりと、光の交差が度々起きるせいで表情が分からなかった。

「ハギのお見舞いに行こうと思って…」
僕が答えるとツユちゃんは寂しそうに言った。

「そっか…!クリスマスの日までに目を覚ましてくれるといいよね…」

ツユちゃんは再びギターに手をかけ音を鳴らす。
僕はギターが気になってツユちゃんの隣に座った。

「私も実は作曲するんだ。だいたいはハギに教えてもらったんだけどね。この曲のタイトルは"金木犀"。今は枯れちゃってるけどね…良かったら聴いて欲しいな。」
 
そう言ってツユちゃんは目を瞑りそっと歌い出した。
風が落ち着き、夕方の日差しが彼女を照らし続ける。
まるでステージにいるようだった。

ー♪ー

バラードの優しくて暖かい音。
まるで僕が金木犀の木々の中で見つけた彼女の姿を見た時の情景を思い出させる歌だった。

「すごい…すごいいい歌だった。」

僕はなんて良さを伝えればいいか分からず、思ったことをそのまま伝えた。
ツユちゃんは笑っていた。

「私もハギのお見舞い一緒に行こうかな。」

そう言ってツユちゃんは立ち上がろうとした瞬間よろめいた。
僕は急いで両手で支えた。

「大丈夫…?」
僕はそっと聞くと

「…へへっダメだねぇ…しっかりしないと。」

そう言うツユちゃんは無理して笑っているように見えた。

ツユちゃんはギターをケースに片付けて、歩き出した。
僕もついて行くように歩く。
風がまた強くなり、髪が大きく乱れる。

「ねぇ、ツッキーさ、ヒマちゃんから聞いたでしょ。私の余命の話。」

急だった。
僕は返事をしていいか戸惑った。
ヒマが勝手に話したことであれば返事をしない方がいいと思ったから。

「大丈夫。あれ、私が頼んだの。ヒマちゃんには可哀想なことしたよね…」

ツユちゃんは歩きながら下を向き呟いた。
 
「どうして…」

僕は気になった。
ツユちゃんから直接言ってもいいことだと思った。むしろ直接言って欲しかった。
ただツユちゃんなりの何かしらの工作があるのかと思った。

「…ただ怖かっただけだよ。」

意外な一言に僕は驚きを隠せなかった。

「ツッキーの辛い顔を直接見る覚悟ができなかった。」

ツユちゃんは小さい声で答えた。
揺れる髪の間から寂しそうな顔がわかった。

…彼女らしくない。

彼女は感情的な行動はしないと思っていた。
ただ同時に人間味や親近感がわいたのも確かだ。

「最近のツッキー、凄く凛々しくてさ、なんだか安心ちゃってて。そんな姿を壊すのがすごく怖かった…だからね、ヒマちゃんに頼んだの。最初はやっぱり直接言った方がいいって言ってくれたんだけどね…」

ツユちゃんは下を向いたまま少し緊張して話していた。
ヒマはどんな気持ちで僕に話してくれたのだろうか。

僕が『頼まれた』ように彼女も『頼まれた』。
頼まれたことが重なり合ったあの夜、ひとりで背負おうのではなく共有して助け合おうと思えるようになった。

「…君はもっとワガママになっていいんだよ。」

ツユちゃんにかける言葉は一体どんなものがいいか、色々考えた上に出てきた言葉だった。
ずっと思っていた。
彼女は優しすぎるんだ。

僕はそう言うと歩く歩幅を大きくする。
ツユちゃんも小走りで僕に駆け寄ると、二人で一緒に歩き出した。

「君が教えてくれたんじゃないか…」
僕はボソッと呟く。

隣で歩くツユちゃんの表情は見ないようにした。
ツユちゃんも僕に顔が見えないように太陽の方に顔を向ける。

何となくわかった。
鼻をすする音が聞こえる。
 
「…ありがと。」
そっとツユちゃんは呟いた。

少しの間沈黙が続く。
僕らの足音と、カラスの鳴き声、ランドセルを背負った子どもが無邪気に駆け抜けていく音、色んな音が響く。

「…そういえばさクワには言ったの?」

僕は少し沈黙が苦手だ。
他の話題を振った。
どちらにせよ聞こうとしていたことだ。

「…言えてない。言えない。」
ツユちゃんは少し強く言った。
 
「クワは誰よりも死に対して恐れてる。」

ツユちゃんは顔を上げて呟いた。

「どういうこと?」

僕はツユちゃんはちらっと見て聞いた。
彼女はもう泣いていなかった。
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