花束に囲まれた君が残したもの。

ーそれでもー

日が暮れて月が登る。
冬の日は短くて、1日がとても早く感じる。

僕とツユちゃんは受付を済ませるとハギの病室へ向かった。
病室へ向かう途中、前の看護師さんとすれ違った。

「ツユちゃん、またそんな動いて…」

看護師さんはツユちゃんに声をかけた。
僕の姿が見えなかったのだろう。
僕が動いた瞬間、看護師さんは僕を確認すると慌てて口元を塞いだ。
 
「いいよ、バレてるから。」 

ツユちゃんがそう言うと、看護師さんは少し眉間に皺を寄せたあと、肩を下ろす。
 
「看護師さんにもツッキーの作った動画見て貰って演技の勉強してもらおうかしら。私なかなか上手く演技できてると思うけどな。」

ツユちゃんは笑いながら話した。
 
「私はもう演技したくないですよ…。」
看護師さんはため息混じりに言った。

大変なものだなぁ。
僕は他人事のように呟いた。
なんだか今日の看護師さんは雰囲気が違う。
疲れているのだろうか…

ペコッと1度挨拶をすると僕らはハギのいる病室へ入った。
部屋にはシーちゃんとヒラの姿があった。

「あれ、ツッキーとツユちゃん。」
ヒラが片手を上げて僕に言う。

「シーちゃんと一緒なの珍しいね。」
あまり見ない組み合わせだと思い聞いた。

「ちょうどここに来る時に会ってね。君たちこそ意外だけど…。」
 
ヒラはニヤッとする顔を腕で隠しながら言った。
そういえばヒラにはバレてたんだっけ…。

色んな誤解が生まれてるだろうが説明しても無駄なことも知っている。
僕はただ呆れた顔をした。

「僕らはもうおいとまするよ。結構前から来てたしね。」

意外にもすんなり2人は退散しようとした。

「シーちゃん大丈夫?」
ツユちゃんはそっと聞いた。
 
「大丈夫だよ。」

どこか暗い表情のシーちゃんはヒラに連れられ部屋を後にした。

僕らはシーちゃんのことが心配だったが、ヒラに任せよう。

そう思い、ハギの部屋に留まった。
窓からは枯れた木の葉が月の影となって揺らめく。

「ハギ…」

僕らはハギを見る。
月明かりに照らされるハギの顔にはもう包帯はなかった。

「クリスマスまであと3日だよ。」
僕は呟く。

一緒に作るはずだった動画。
やっとお披露目できるんだ。

僕らは沈黙の中ハギを見つめた。
少し時間が経った頃、ツユちゃんは呟いた。

「ハギね……1番早くに気づいたの。私の病気のこと。すごいよね、見た目もちょっとしか変わってなかったのに。」

僕は彼が1番に気づいたことに関して、そうだろうな。と思った。
彼は誰よりも観察力と察しが良い。
 
「流星群を見たあの日、みんなで寝転がってたでしょ。あの時にこっそり聞かれたの。誤魔化そうと思ったんだけど…なんだかそれもハギにはバレちゃう気がして。正直に言ったんだ。」

僕は合点がいった。
流星群を見たあの日、

 「…星が綺麗だったんだよ。」

そう言ってハギはこっそり涙を流していた。
花火がなければ気づかなかったであろう姿に、僕は戸惑い、そして違和感を持った。

違和感はこの真実だったのか。
僕はハギを見た。

彼はどれほど周りを支えてきたのだろうか。

両親を失って籠ってしまった小さなクワ、余命を告げられ一人で戦ってたツユちゃんを始め、僕が山小屋を行くきっかけを作ってくれたり、シーちゃんを事故から守ったり。

考えれば考えるほどハギの優しさが思い出せる。

でも、幸せになるべき人がなぜこんな不幸に合わなければ行けないのだろう。
同時にすごく悔しかった。

僕らはしばらく経ったあと、ハギの病室を後にした。
ツユちゃんはこのまま自分の病室に向かうと言って、僕らは病院内で別れた。

僕は一人来た道を歩く、今日はたくさんのことを知った。
ボーッと歩きながら頭の中で整理する。
月の光がやけに眩しかった。

一人一人笑顔の裏には抱えているものがあって、それを乗り越えたり乗り越えようとしたりしている。そして幸せを探すようにみんなと出会い、共有し合う。

この連鎖がいくつも結ばれて複雑に絡み合っていく。
ただの幸せなだけじゃない幸せが、僕らを不安にさせる。

それでも僕らはそうやって何度も絡み合って過ごしていく。
時は永遠じゃないことがわかっているから。

僕は一息する。
冷たい風が喉を通る。

月の光でできた僕の影は大きく、まるで背伸びしているようだった。

家に帰ると僕は作った動画を確認した。
そして動画を見ながら寝落ちしてしまっていた。
< 44 / 63 >

この作品をシェア

pagetop