花束に囲まれた君が残したもの。

ー救出ー

ーーー

「…なんでいるんだ…」
ハギが少し震えた声で話す。

「やっぱり…」
ツユちゃんが呟く。

病室にピリッとした空気が流れていた。

さっきの看護師はそのふたりの様子を見て少し考えたあと、焦ったように病室から飛び出ようとした。
    
 
 ガタン!
 
看護師が飛び出てきて病室の外にいた僕らは咄嗟に外に出れないように扉の前を塞いだ。
看護師は呆然と後ずさりをする。

「ヒマ、扉しっかりもってて。」

ヒマは扉へ急いで向かい、ドアノブを必死に掴む。その間に僕が看護師さんの腕を掴む。

「ツッキー…」
そこには怯えた様子のツユちゃんとハギの姿があった。

「一体なんの真似ですか…?」

看護師さんがとぼけた口調で言うが、瞳は曇っていた。

「…来てよかった。」
僕はそう呟いて、息を整えて言った。
 
「…もうやめなよ。」
 
僕はハギとツユちゃんを見て呟いた。
ふたりはそっと頷いた。
さっきのハギの怯えで確信に変わった。
看護師の表情は変わらなかった。

「え、どういうこと?」
ヒマが聞いてきた。
 
「病院に来る度にずっとひっかかることがあったんだよ。さっきハギが看護師さんをみたとき怯えてて…それで確信した。」
僕はもう一度呼吸を整えて話し始める。

「車運転していたのあなたなんでしょ。」

僕は鋭い目つきで看護師を睨む。
ヒマは驚いている様子だった。

「何の話ですかね。」
看護師はシラを切る。

僕は1度深呼吸をして話し始めた。 
 
「最初に看護師さんに不審に思ったのは、僕がひとりで見舞いに来たあの日。ツユちゃんがどこにいるのか聞いた時、あなたはハギの周りにいる人の名前を覚えていた。でも覚えすぎていた。僕は最初覚えるのが大変だったのに…警戒するあまり覚えていたんでしょ。」

看護師は僕から顔を背むけた。
   
「次にクワがツユちゃんを見て怯えていた。それは今のハギと一緒。病気の姿のツユちゃんじゃなくて、あなたに怯えていたんだと思う。もしかしたら……思い出してしまったのかも。昔、親を殺した人だってこと。」

「そして最後…今日はホクロがあるようだけど…。」
そう言うと、看護師はやっと僕の方を見た。
 
「前にツユちゃんと僕があなたと廊下ですれ違った時に感じた異なる雰囲気。その時はあなたは急いで口元を隠したけど、それは話してしまったという動作ではなく、ホクロを隠し忘れていた事に焦った。犯人の顔は噂出回り始めていた。そのほくろが特徴だと。だから分からないように隠していたんじゃないですか?」

これが僕の見解。
少しづつ違和感に感じていたことが繋がった気がした。
きっとツユちゃんも気づいていたのだろう。
隣でそっと頷いた。

「…」

「…すごいね、ツッキー君。だっけ。」
看護師は少し笑って言った。

「その名前で呼ぶなっ」

僕はなんだかあだ名を汚された気がして苛立ち大声を出してしまった。

「演じたくないんだよ。もう。」
看護師は普段とは違う少し低めの声で言った。

「ツッキー君は大分頭が切れそうだから警戒してたんだけど…やっぱりすごいね。」
看護師は呟いた。

「ほんとに君たちは仲が良いね。こっちはいつハギ君が目を覚まして私に気づくかヒヤヒヤしてたというのに、隙を全く作らしてくれなかったのだもの。特にクワ君、シーちゃん、この2人は毎日来てさ。ツユさん、君だってずっと私を警戒しっぱなしだった。」

「隙ってどういうこと…」
ヒマちゃんが険しい顔で問う。

「2人…殺してるんだよ、もう3人でも4人でも変わらなかったってこと。」

看護師がそう言い終わると、看護師の服の首元を掴む。

「てめえ!」
僕はその時何を思ったか分からない。
ただ許せなかった。

「そんなつもりはなかったんだよ。でもいいよ、もう疲れたんだ。」
看護師は冷静に言う。

「じゃあなんでその場を逃げたの。」
ツユちゃんは言った。

「…」
看護師は沈黙した。
  
「…今もそう思ってるの?」

そう言うとツユちゃんはふらつく体で立って看護師の前に座り込み顔を覗き込む。

看護師はゆっくりと首を横に振ると、
「右のポケットに入ってる。」
そう呟いた。

ツユちゃんが看護師のポケットに手を入れるとそこには小さなメモと地図、そして小さな袋に入った塩化スキサメトニウムという注射器が入っていた。

ツユちゃんは小さなメモを広げる。
「あなたの過去を知ってます。山小屋に来てください。クワ」

「クワ…?」
「彼から手紙を貰ってね。行ってみたんだよ……君たちの山小屋に。」
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