意地悪な副社長に狂うほど愛される
施設を出たあと、私たちは車に戻った。

「今日は車を出してくれて助かった」
「いつもどうしてたの?」
「タクシー……」
「金掛かってしょうがねぇな! これからは俺を呼べ」
「いいよ、そんなの」

後部座席には、空になった段ボールがいくつか積まれている。

「休みの日に会社まで行かせてごめん」
「いいよ、別に」

会社についてゴミ置き場に段ボールを置いた。

「よし!」
「本当にありがとう!」
「このあと、どうする?」
「このあと?」
「暇なら飲みに行かない?」
「あ、じゃあ今日の御礼に!」
「いい、いい。そんなのいい」

正直、ありがたかった。
1人になりたくなかったから。
あの日から、1人でいると副社長のことを考えてしまう。
寂しくなるとアプリを開いた。
しかし、それが自分を惨めにむなしくさせるだけだった。

私たちが1階のエントランスを出ようとした時、黒塗りの車が入ってきた。

「あ、副社長だ」

啓太の声に心臓がドクンと激しく鼓動し始める。

なんで――

「休みの日なのに仕事してるのか、あの人」

足がすくみ立ち止まった。
啓太も立ち止まる。
おそらく挨拶するためだ。
私は啓太の影に隠れなんとかやり過ごせないかと考えた。

運転手がドアを開けると副社長が出てきた。
秘書も一緒にいる。
なるべく自分だと気づかれないようにやり過ごしたいが無理だ。
休日で守衛さんと私たちしかいない。
せめて自分だと気付かれないようにしようと頭を深く下げた。

「あゆ美?」

啓太が少し驚いて言った。
靴音が近づいてきた。
スローモーションのようにゆっくりに感じ心臓が壊れるんじゃないかというほどドキドキした。
靴音は立ち止まることはなく、そのまま遠のいていった。

「おい、いつまで頭下げてるんだよ」

啓太の声に驚いた顔を上げた。

「お前、真面目すぎ」

そう言って啓太は私の頭をぐしゃっとして笑う。

「ちょっと!」

私たちはふざけ合いながら会社を離れた。
啓太の存在が私を惨めな思いから救ってくれた。
副社長は私なんか眼中にない。
そんな現実から救ってくれる同期という存在がこれほどありがたかったことはなかった。


会社の自動ドアが閉まる時、外に出て行くあゆ美たちを御堂駿はじっと見ていた。
その目は狂気を帯びていることに、本人も気付いていないのだろう。
まるで自分のものに触れるなというほどに暗い瞳だった。

彼女が隣にいる気に入らない男。

御堂は、笑顔を向けているのあゆ美の姿が見えなくなるまで見続けた。

「笑顔を向けられる男がいるのか」

小さな声でぼそっと言うと秘書が反応した。

「はい? ごめんなさい。なんて?」
「いや、なんでもない」

数日前、あゆ美が自分に向けてきた表情は困惑、恐怖だけだった。
その事実に苛立ちながらエレベーターに乗り込んだ。
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