意地悪な副社長に狂うほど愛される
結局、終電ギリギリまで私と啓太は飲んで楽しい一時を過ごした。

啓太と別れ、私は電車に乗り最寄り駅についた。
飲み過ぎたようで顔が火照っていたが、足取りはしっかりしている。

駅のロータリーは私と同じように飲みに行って帰ってきただろう人が多くいて大学生のグループが騒いでいた。

タクシーがいくつか止まっていた。
私がタクシー乗り場を通過したときだった。
心臓が嫌な音を立てた。
そこには黒塗りの高級車がはっきりと見てとれた。
まだまだ明るい駅前でその車は異様に見えた。
私が立ち止まると同時に運転手が出てきて後部座席を空けた。
ゆったりとして出てきた男はまぎれもなく副社長だった。
逃げるべきなのに脚がコンクリートで固められたように動かなかった。
その間にも副社長は近づいてくる。
震えている手を私はぎゅっと握る。
副社長はすぐそばまで来て立ち止まった。

「やあ」

副社長は不適な笑みを携えた時、高級車は走り出して去って行った。

「なんで、ここに」
「キミが心配で」

私は、ようやく脚を後ろに引きずるように動かすことが出来た。
そのまま逃げるように副社長から逃げようとしたが、副社長は音もなく私に追いつき腕を引っ張った。
簡単によろけた私はいとも簡単に副社長の胸の中に収まった。
副社長の香りがふわっとした。

「は、離してください」
「離さない」

私がもがいている様子を楽しむように副社長が笑った。
周りにいる人たちに助けを求めようと見る。
興味本位で見る人や心配そうにする人もいた。
しかしあまりにも副社長が美しい顔をしているので、この男が私を無理矢理抱いているなんて誰ひとりとして思ってくれなかった。
ただの痴話げんかと思われたようで見とれている人や「家でやれよ」と舌打ちする人もいた。

「大人しくしないとキミの同期にアプリのことバラすよ」

耳元で囁かれて私は凍り付き力を抜くことで降参を示すことになった。
その様子に副社長は笑みを浮かべていることだろう。
見なくてもわかった気がした。

「さあ、帰ろう」
「帰ろうって何処にですか」
「キミの家だよ」
「え?」

副社長は怪訝な表情を浮かべた私の手を取り、家の方角へ向かった。
この男にとって私の住所を知ることなんて指一本で出来るのだろう。
私は驚きもしなかった。
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