意地悪な副社長に狂うほど愛される
この前の映画館を出た後だった。

「これから、どうする?」

副社長が私を見た。

「帰ります」
「終電はもうない」
「タクシーで帰ります」
「キミの家はここから近いのか?」
「タクシーならすぐです」

嘘だった。
おそらく割増料金で1万近くになる。
しかし、これ以上は一緒に居たくなかった。

「スマホを出せ」
「え?」
「早く」

私は言われるがまま、鞄からスマホを出した。

「あのアプリを開いて」

私はグッとスマホを握った。

「さあ、早く」
「なぜですか?」
「映画館のレイトショーのあとは何だった?」

私は黙ったまま、副社長を見つめた。
するとニヤリと不敵な笑みが浮かぶ。
彼はわかっているのだ。
このあとのエピソードを。

「行きませんよ」
「何処に?」

私は顔が熱くなった。
わかりやすく反応する自分が許せないと思った。

「わかってますよね」
「キミの口から聞きたい」

そう言うと副社長は私に近づき頬を撫でた。
私はゾクっとして反射的に逃げる。

「俺が嫌いか?」
「こんな人だとは思いませんでした」
「それは幻滅したってこと?」
「はい」
「そうか、残念だ。キミのデートプランを現実にしてあげようと思ったのに」
「結構です!」

私はそう言って逃げた。
全速力で、振り返らず。
ただひたすらに距離をとった。
副社長が追ってくることはなかった。

家に辿り着くまで、なんとか涙は我慢したが、部屋に入った瞬間、私は声を上げて泣いた。

8年もの間、好きだった人は悪魔だった。

アプリでは映画のあとにストーリーが続く。
スイートホテルで一夜を明かすというものだった。
夜のシーンはなく、暗転するだけだが、直前まで甘い言葉はちゃんとAIが伝えてくれる。
その言葉が胸キュンすぎて、もちろん保存した。

副社長はそれを見たのだ。

副社長からアプリのような愛の言葉は映画中にいっさいなかった。
私を挑発して、恥ずかしめて、怯えさせるだけ。
副社長は私を遊び相手にしか考えていなかった、その事実がショックだった。
映画に誘って、そのあとは自分の欲の為に遊ぶだけ。
それを思い知らされ、辛さと恐怖で頭がどうにか、なりそうだった。

それでも私がおかしいのは、たった1度でも副社長に抱かれてみたいという自分の欲に気付いてしまったからだ。
だから私は逃げたのだった。
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