意地悪な副社長に狂うほど愛される
夜になり副社長が予約してくれていたレストランで食事を済ませて私は副社長の車で帰路についている途中だった。

占いのあとから副社長に少しだけ距離をおかれている気がする。
車の中では、とうとう無言だ。
この状況が副社長にとって私とのことがただのゲームであるという現実を呼び起こす。

早く家に着いてほしい。
そんな気持ちの裏で彼の近くにもう少しいたいという反する気持ちが湧き出てくる。
私はいったい、どうしたいのか。
片思いの相手とのデートが嬉しいはずなのに、悲しかった。

もうすぐアパートに着く直前で副社長がハンドルを思いっきり回転させた。
車のタイヤがすれる音と共に私は身体がドア側に傾く。

「ごめん、気が変わった」
「え?」

副社長は大きな公園の大きな駐車場に車を停めた。

「あの、何を」

副社長が助手席から私を見つめる。

「まだ1つやり残したことがある」
「やり残したこと?」

私はそう言われて気がついた。
今日のデートの最後にはアプリではキスをするのだ。

「待ってください。さすがにそこまで同じことをしなくても」
「ここまでデートを忠実に再現したのに?」

忠実どころの話ではない。
全てがアプリを超えていた。
彼が今日、私を何回ときめかしたか、なんて数えるだけヤボだ。

レストランでの副社長の所作は美しく見惚れた。

「何?」

そう言って私に視線を投げかけるだけで、心を射抜かれた。
手にはフォークとナイフを持っているのに。

そして私は今、副社長を唇を見てしまう。
薄いが綺麗で存在感のある唇から目を離すことができない。

いつも意地悪な笑みの形に歪められようやく視線が副社長を見ると、副社長は私の方に身体を寄せてきた。

「き、キスをする為にわざわざここに?」
「ああ」
「副社長はそんなに私と?」
「したい」

ハッキリ言われて心臓が跳ねた。
副社長が私の片頬の頬に手を置いた。
冷たい手が頭を冷静にさせる。

「待ってください」
「なんだ」
「副社長は私の恋人ではないですよね」
「ああ」

今度は心臓を突き刺すような痛みが襲う。

「じゃあ私はキスしたくありません」
「なぜ」
「なぜって!」

私は副社長を睨んだ。

「副社長が私を好きではないからです」

好きだと言って欲しかった。
しかし彼からその言葉を聞くことは、なかった。

「キミが俺を好きだろう?」
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