意地悪な副社長に狂うほど愛される
初めての反抗
運転席の副社長は黙ったままだった。
しばらく沈黙が続いた。
夜の道路を滑るように車は走る。
私は膝の上で手を握りしめた。
「婚約者がいるんですね」
副社長は答えなかった。
「いるんですね」
「それを聞いてどうする」
「どうするって……」
「怒るのか。泣くのか。それともこのゲームを終わりにするか」
「ゲームって……」
「ゲームだろ。始めたばかりのゲーム」
淡々とした声だった。
まるで他人事のように。
何かが、私の中で弾けた。
「あなたは何がしたいんですか」
声が震えた。
「なんだと思う?」
「私のことを揶揄って面白いだけでしょう? AIで自分のことを彼氏にしていて……そ、その、あ、遊んでやろうと思ってただけでしょ?」
「あゆ美」
副社長がたしなめるように私を名前で呼んだので驚いた。
誤魔化されては駄目だ――
「なんで婚約者がいるのに私に関わるんですか。なんでデートしたんですか? なんで家まで来たんですか? なんで……私に触れたんですか……なんでキスを」
声が詰まった。
泣きたくなかった。
この人の前では絶対に泣きたくなかった。
車が信号で止まり副社長が、いつもの意地悪な笑みをこちらに向けた。
それだけで私はドキドキしてしまう。
そんな自分の身体が本当に嫌だ。
「も、もし愛人にするつもりなら、お断りします。捨てるつもりなら最初から拾わないでください」
副社長の表情が変わった。
笑みが消えていた。
「愛人にするつもりもない」
「じゃあなんなんですか」
「……さあ」
「さあって」
「俺にもわからない」
私は言葉を失った。
信号が青になり副社長は再び正面を向いて走り出した。
街の光が副社長の横顔を照らす。
いつもと同じ完璧な顔。
感情がまったく読めない悪魔のような顔。
「婚約の話は」
副社長が静かに語り出す。
「まだ何も決まっていない」
「でも婚約者がいるって」
「いない」
「え?」
「縁談がある。婚約者はいない。見合いはすることになっている」
私はその言葉の意味を咀嚼するのに数秒かかった。
「それは……」
「同じことだと思うなら、そうだろう」
私はふと外を見て私の家に向かっていることに気づいた。
このまま流されてはいけない。
「降ります」
「まだ着いていない」
「1人で帰ります」
「あゆ美」
「あゆ美って呼ばないでください!」
大きな声が出た。
副社長がちらっと私を見た。
今度は笑っていなかった。
「……あゆ美」
「呼ばないでって言いました」
「あゆ美」
低い声でもう1度呼ばれて、私は奥歯を噛んだ。
「すまなかった」
私は副社長を見た。
この男の口から謝罪を聞くのは初めてだった。
謝らないでほしかった。
「降ろしてください」
副社長は黙ったままだった。
「降ろして!」
「……」
私は鍵を開けてドアノブに手をかけた。
「何をっ」
副社長が急ブレーキをかけるのと同時に私は飛び出して歩道に一目散に逃げた。
複数のクラクションが鳴っているのを後方で聞いた。
私は振り返らず、そのまま逃げた。
しばらく沈黙が続いた。
夜の道路を滑るように車は走る。
私は膝の上で手を握りしめた。
「婚約者がいるんですね」
副社長は答えなかった。
「いるんですね」
「それを聞いてどうする」
「どうするって……」
「怒るのか。泣くのか。それともこのゲームを終わりにするか」
「ゲームって……」
「ゲームだろ。始めたばかりのゲーム」
淡々とした声だった。
まるで他人事のように。
何かが、私の中で弾けた。
「あなたは何がしたいんですか」
声が震えた。
「なんだと思う?」
「私のことを揶揄って面白いだけでしょう? AIで自分のことを彼氏にしていて……そ、その、あ、遊んでやろうと思ってただけでしょ?」
「あゆ美」
副社長がたしなめるように私を名前で呼んだので驚いた。
誤魔化されては駄目だ――
「なんで婚約者がいるのに私に関わるんですか。なんでデートしたんですか? なんで家まで来たんですか? なんで……私に触れたんですか……なんでキスを」
声が詰まった。
泣きたくなかった。
この人の前では絶対に泣きたくなかった。
車が信号で止まり副社長が、いつもの意地悪な笑みをこちらに向けた。
それだけで私はドキドキしてしまう。
そんな自分の身体が本当に嫌だ。
「も、もし愛人にするつもりなら、お断りします。捨てるつもりなら最初から拾わないでください」
副社長の表情が変わった。
笑みが消えていた。
「愛人にするつもりもない」
「じゃあなんなんですか」
「……さあ」
「さあって」
「俺にもわからない」
私は言葉を失った。
信号が青になり副社長は再び正面を向いて走り出した。
街の光が副社長の横顔を照らす。
いつもと同じ完璧な顔。
感情がまったく読めない悪魔のような顔。
「婚約の話は」
副社長が静かに語り出す。
「まだ何も決まっていない」
「でも婚約者がいるって」
「いない」
「え?」
「縁談がある。婚約者はいない。見合いはすることになっている」
私はその言葉の意味を咀嚼するのに数秒かかった。
「それは……」
「同じことだと思うなら、そうだろう」
私はふと外を見て私の家に向かっていることに気づいた。
このまま流されてはいけない。
「降ります」
「まだ着いていない」
「1人で帰ります」
「あゆ美」
「あゆ美って呼ばないでください!」
大きな声が出た。
副社長がちらっと私を見た。
今度は笑っていなかった。
「……あゆ美」
「呼ばないでって言いました」
「あゆ美」
低い声でもう1度呼ばれて、私は奥歯を噛んだ。
「すまなかった」
私は副社長を見た。
この男の口から謝罪を聞くのは初めてだった。
謝らないでほしかった。
「降ろしてください」
副社長は黙ったままだった。
「降ろして!」
「……」
私は鍵を開けてドアノブに手をかけた。
「何をっ」
副社長が急ブレーキをかけるのと同時に私は飛び出して歩道に一目散に逃げた。
複数のクラクションが鳴っているのを後方で聞いた。
私は振り返らず、そのまま逃げた。