意地悪な副社長に狂うほど愛される
家には帰らなかった。
私は駅前のカプセルホテルに入った。
狭く囲まれた場所に入るとようやくホッとできた。

私はスマホを手に取って元凶のアプリを開いた。

『御堂駿のデータをすべて削除しますか?』

指が止まったのは、ほんの数秒だった。
OKを押す。

『データを完全に削除しました』

スマホを胸の上に置いて目を閉じた。
瞼の裏に浮かんだのは「すまなかった」と言った時の副社長の顔だった。
笑っていなかった。
意地悪な顔でもなかった。

その時、ふと思った。

副社長は私のことを覚えていない――
失念していたその事実に笑えてきた。

恥ずかしい――
なんて自分は恥ずかしいい女なんだ――

副社長にいつか会ったら『私のことを覚えていますか?』って聞くことを想像することもあった。

「……嫌いになれたらよかったのに」

小さく呟いて私は枕に顔をうずめた。
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