意地悪な副社長に狂うほど愛される
郵便局を出て、私は会社へ戻る道を歩いていた。

「宮木あゆ美さん?」
「え?」

突然、声を掛けられて驚いて振り返った。
そこには先程、会社のエントランスにいた女性が立っていた。
確か名前は――

「佐伯さん?」

すると彼女は満面の笑みを浮かべた。

「会いたい人にはお会いできました?」
「はい! 今、そこに」

私が彼女の指さす方へ顔を向けると、ホテルの入り口から出てくる副社長がいた。
私は時が止まったように固まってしまった。
そんな私に副社長は気がつくが顔色1つ変えない。
私はこんなに動揺しているのに、この人はーー

「あゆ美さん?」
「あ、はい」
「どうかされましたか?」

副社長が彼女の隣に並ぶ。
私は思わず2人を交互に見てしまう。

「彼が私の会いたかった人」
「そ、そうですか」
「2人はお知り合い?」
「え、お知り合いというか、副社長なので」
「あ、そうですよね」

凜華さんはパチンと両手を合わせて納得したように微笑んだ。

「駿さん、こちら、あゆ美さん。あなたは知らないでしょうけど、あなたの会社の社員ですよ」
「そうですか」

その言葉に思わずピクッと身体が震えた。

「彼女に助けて貰ったんです」
「そうですか、婚約者がお世話になりました」

私は信じられない思いで副社長をじっと見つめた。

「こ、婚約者……」
「まあ! 駿さんたら!」

彼女がそういうと副社長の腕に絡みつく。

「あ、あの……私、まだ勤務中ですので失礼します」
「あら、そうなの? 皆さん、お忙しいのね」
「では」
「あゆ美さん」
「はい」
「またね」

凜華さんは綺麗な微笑を浮かべて私に手を振った。
私は会釈をして逃げるようにその場を後にした。
顔を背けた瞬間から涙が止まらず、私は自分に覚悟がまったく出来ていなかったことを知り、もう後戻りができないほど、副社長を好きになっていることを知った。
そして後悔しかなかった。
関わらなければよかったとーー
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