意地悪な副社長に狂うほど愛される
目の前に、黒い傘をさした副社長が立っていた。
副社長は、無言で私を見ていた。
冷たい目。

「ふ、副社長……」

副社長はずぶ濡れの私をただ見ているだけで何も言わなかった。
私の髪から水が滴り落ちている。
ブラウスが濡れて、肌に張り付いている。
副社長の視線が、私のブラウスに下がった。
透けかけているブラウス。
私はハッとして慌てて両腕で身体を出来る限り隠した。

「す、すみません。見苦しい姿で……」

副社長は次に水が滴る私の首筋を見た。
私は居心地が悪くなった。

「あの……失礼します」

私は副社長の横をすり抜けて雨の中に飛び出そうとした。

「待て」

副社長が私の手首を掴んだ。
そのまま私を自分の方に引き寄せた。
傘の下、至近距離。

「あ……あの……」

副社長は私の顔を見つめる。
無表情。
私は副社長の香りを感じた。
香水なのか、なんなのかわからない香りだ。
自分の心臓がドクドクいっているのがわかった。

副社長は私のボタンが1つ開いているブラウスの襟元に目線を置いた。
副社長は私にさらに一歩近づいた。
私は、後ずさろうとする。
しかし、それより先に副社長が襟元に手をすべらせ私の首に手を置いた。
あまりにも冷たい手で私の体はビクッと跳ねた。

副社長は私の目を見たがずっと無言だった。
怖くて声がでない。
そして次に手が鎖骨に降りて行った。

「……っ」

小さく声が漏れた。
副社長の手が止まった。
私と目が合う。
私は恥ずかしくて顔が熱くなった。

副社長はクスっと笑い、手を離した。
私はようやく息がまともにできた。

「どうして逃げる?」
「逃げているわけでは」
「逃げているだろう」

私はじっと副社長を見た。

「なんで私に構うんですか?」

目元に涙が浮かんできた。
辛うじてまだとどまっている。

「あなたはひどい人です……」

副社長が首を傾げた。

「ひどい?」

しかし私の頬にとうとう涙が流れた。
一度、流れると止まらなかった。
副社長は待ってましたとばかりに笑顔になった。
副社長が私の頬に手を伸ばした。
私の涙を、親指で拭う。

「俺は……キミが欲しいだけだ」
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