意地悪な副社長に狂うほど愛される
私は副社長から目が離せなかった。

「からかわないでください」
「本心だ」
「私は愛人になるつもりはありません」

副社長は黙った。
この人は本当にずるい。
都合が悪くなると黙る。
雨の音が激しさを増していた。

「私はあなたのおもちゃには、なりません」
「俺をおもちゃにしていたのは、キミだろう」
「べ、べつに私はおもちゃにしていたわけでは!」

AIのことを言われると途端に罪悪感が増す。
私はいったい、いつまで、このことで脅され続けなければならないのだろうか。

「俺だってキミをおもちゃにしていた、つもりはない」
「じゃあ、いったい何を望んでいるんですか?」
「俺のそばにいろ」
「あなたには婚約者がいますよね!」

私は嫉妬している。
今の自分の声で、それがわかり情けなくなった。
それでも止まらない。

「私はあなたの愛人になるつもりはないです!」
「愛人にするつもりはない」
「じゃあ何なんですか? あなたの目的はいったい何!?」

副社長は私を見つめた。
その表情に僅かな悲しみが混じっていた気がするのは私の気のせいだろうか。

「副社長は、ただ私が欲しいという身勝手な理由だけで、こんなことをしているんですか?」
「ああ」

副社長の肩が落ちた。

「私は、あなたのものには、なりません」
「いや、なる」

即答する副社長に私は眉間の皺を深くした。

「私があなたを好きだから?」
「実際そうだろ?」

悔しくなってきた。
欲しいと言われて本来なら嬉しいはずなのに、副社長の欲しいはただの欲望だと知っているから辛かった。
飽きたら捨てられる関係になるってことだ。
それはよくわかっていた。

「私はあなたのものには、なりません」
「なぜ」
「なぜって、そんな都合の良い相手、誰だってなりたくない」
「都合が良い?」
「副社長は両親もいる温かい家庭で育っているから、わからないでしょうけど、私には家族がいないんです!」

もう止まらなかった。

「だから私は家族を持ちたいんです!」

声に出してようやく私は自分の望んでいることがわかった。
私は家族を持ちたいんだ。

「だったら、AIなんかで恋愛している場合ではないだろう、矛盾しているじゃないか」

顔がカッと熱くなった。

「私はいったい何をすれば、良いんですか? 何をしたら許して貰えるんですか? なんで、そんなに私を惨めにさせるんですか! ただ、あなたを好きだっただけなのに!」

涙が出てきた。
副社長が私の顔に触れようと手を伸ばしてきたので避けた。
雨粒が思いっきり頭上から落ちてくる。

「私は、もうあなたが大嫌いです!」

私はそう叫ぶと、その場を立ち去った。
走って家に向かった。
副社長は追ってこなかった。
自分が矛盾していることは、よくわかっていた。
好きだからAIでもいいから彼と恋愛したい。
疑似でもいいから、そばにいたい。
実際の彼は私をAIよりもドキドキさせて、苦しくさせた。
生身の副社長はAIなんかよりも、ずっと魅力的で、ずっと酷いひとだった。
私は結局、副社長のほんの1部だけを好きになっていただけだった。
でも彼に傷つけられれば傷つけられるほど、苦しいほどに溺れた。

嫌いになれたらいいのに――

触れて欲しい。
触れたい。

私は結局、淫らな想いに溺れていたのだ。


取り残された駿は、しばらくの間、傘をさしたまま、そこに立ちすくんでいた。
そして傘ごと頭を上げて暗い空を見て、目を瞑った。
雨に濡れていくのも気にせず、その場に立っている姿は気持ちを落ちつかせているようにも見えた。
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