意地悪な副社長に狂うほど愛される

地下資料室

翌日の朝は身体が痛くてだるくて、起き上がると頭痛がした。
私はものの見事に風をひいたらしい。
熱を測ると余計に具合が悪くなりそうだったので市販の風邪薬を飲み、マスクをして会社へ行った。
アルバイトの頃から仕事を休んだことがない。
総務部は慢性的な人手不足で、さらに任された仕事があった。
新卒の子たちと違う私は人一倍、頑張らないといけない。
誰に言われたわけでもないのに、そんな風に考えてしまう自分が嫌だった。

「大丈夫? 風邪?」
「すみません。ちょっと」
「休んで良かったのに。有給あるでしょ?」
「薬、飲んだので大丈夫です。でも風邪がうつらないように私のそばにはあまり寄らない方がいいです」

先輩の佐々木さんはクスッと笑った。

「宮木さんって本当に人にばかり優しいね」
「え?」
「あなた、自分に厳しいじゃない。もっと、まわりに甘えて自分にわがままでいいのよ」

そういうと佐々木さんは自分のデスクに戻っていった。

ちがうんです。
私は自分のことしか、考えていないんです。
でも、そんな自分を認めたくて、いい人のふりをしているんです。
本当は欲深い人間なんです。

私は地下の資料室へ向かった。
幸い、任された仕事は、ここで1人でやる仕事だった。
喚起するための電源を入れて私は黙々と仕事をした。
仕事に集中すれば副社長のことを考えずに済んだ。
それでも悪魔は向こうからやってくるものだ。
それを忘れていた。

コツンコツンと足音が近づき、振り返ると資料室のドアに寄りかかるように悪魔は立っていた。

私は悪魔を無視した。

「副社長を無視か」
「こういう時だけ階級を言わないでください」

鼻で笑った副社長が中に入りドアを閉めた。
私は信じられないと勢いよく振り向くと鍵まで閉める音がした。

副社長が近づいていたので私は逃げるように反対に回った。

「逃げるな」
「追いかけてこないで」

入り口は1つしかない。
そちらに向かうのは難しく置くにどんどん入っていく。
それをわかっているかのように副社長のゆったりとした靴音が響く。

「怖いです! 何処か行って!」

私は激しく咳き込んだ。
副社長はピタッと一瞬、脚を止めたかと思うと走って私のいる棚に向かってきた。

「どうした」

聞いたことのない少しだけ焦った副社長の声がした。
私は咳が止まらずうずくまる。
副社長が近づき私のそばに寄りそうと背中をさすってくれた。
しばらくすると、咳が落ちついてきた。

「すみません、風邪をひいているんです。だから、離れて下さい」

私がそう言うと副社長は私の腕を引っ張って抱きしめた。
副社長の胸に顔を埋めて副社長の服から、いつもの癒やしの香りがした。
鼻がつまっているはずなのに、脳が覚えているのか、その香りが自然としてしまう。
ドキドキしているはずなのに、温かくて安心して眠くなる。

「ごめん」
「え?」
「俺のせいで風邪をひかせた」
「……そうです。副社長のせいです」

副社長が鼻で笑う声がした。

ああ、やっぱり彼が私も欲しい――

しかし、脳裏に佐伯凜華の顔が浮かび私は突き飛ばすように副社長から離れた。

「やめてください!」

副社長はぽかんとする。
私は地べたに座り込み泣くのを我慢した。

「もう少しだけ待ってくれないか」
「何をですか?」
「いや……」

副社長は目を伏せた。
私が立ち上がろうとすると副社長が腕を引っ張った。
いつもより力がなくなっている私はすぐに倒れ込んだ。
副社長の顔が目の前にあり、固まる。

その時、ドアが激しく揺れる音がした。
私たちは同時に振り返る。

「あれ? 電気ついているのに鍵が閉まってる」
「電気消し忘れたんじゃない?」

誰かが資料を取りに来たようだ。
このままでは鍵を閉めたまま、副社長と2人でいたことを知られてしまう。
ここの鍵は外から暗証番号で簡単に開く。

「こっち」

副社長は私の手を取って、奥に進んだ。
乱雑に置かれたロッカーの中に2人で滑り込むと同時にピピッと音がして外にいた社員が入ってきた。

狭いロッカーで副社長と密着しすぎて私の心臓の音がバレている気がする。
そんなことを考えると、さらに鼓動が早くなった。
副社長が鼻で笑う声が聞こえ私は上を向いた。
副社長と見つめ合う。
マスクを外された。
すると副社長は窮屈そうに屈みながら私にキスをしてきた。
逃げることも出来ず、声も上げることができない。
外ではすぐ近くを人が通る声がした。
副社長は、それがわかっているのか、わざとキスを激しくする。
唇を舐められ、ゾクッと身体が震えると、私の反応がわかったのか、副社長のキスは激しさを増した。
思わず声が出そうになるのをグッと我慢すると喉が震えた。
副社長がさらに膝をさげて腰を落とした。
そうするとさらに顔が近くなり舌が入りやすくなった。

なにこれ……気持ちよすぎる

どのくらい夢中でキスをしていたのだろう。
資料が見つかったのか、出て行くような音がして、電気も消され、僅かに漏れていた明かりも消えた。

顔がようやく離れた。

「風邪がうつりますよ」
「うつせばいい。俺のせいなんだろ?」

そう言った声は、きっといつもの意地悪な笑みを浮かべて言っていることだろう。
ロッカーの扉を開き、ようやく外に出れた。
空気が薄かったのか、私が息を止めていたのか、私は息切れをしていた。

「で、電気」
「待て」
「え?」
「ちょっとだけ、このままでいてくれ」
「なんでですか」
「いいから」

少し余裕のない副社長の声に私は胸がざわついた。

「つけます!」
「やめろ」

電気は近くにあったので、私が手を伸ばそうとしたところで副社長に再び抱きしめられた。
その瞬間、理由がわかった。
副社長の脚の間にあるものが私のお腹にあたった。
それは明らかに固くなっていた。
胸がぎゅっとなった。

「ふ、副社長……」
「不可抗力だ」

副社長は私を見ずに言い、なんだか可愛く見えた。

私は本当に重傷だ――

「怖いか?」
「え?」
「お前に反応する俺が怖いか?」

私は首を横に振った。

「でも……私は……都合の良い女には……」

言葉が続かなくなり、意識が遠のいた。
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