意地悪な副社長に狂うほど愛される

社長からの呼び出し

1週間はあっという間に過ぎた。
その間、副社長からの連絡はいっさいなかった。
最初にあった期待は、金曜日になることにはマイナスになるほど、打ちのめされていた。

少しだけ残業して会社を出るとスーツの男性に声をかけられた。
その人は御堂社長の秘書だった。
私は車に乗せられて、あっという間に御堂社長、その人の前に立つことになる。

「まあ、座って」

大きな書斎のような、その部屋は、おそらく副社長の実家の一室。
きっと社長の仕事場なのだろう。

「失礼します」

まるで就職の時の面接のような声が出てしまった。
促された、これまた高級そうな革張りのソファに腰掛ける。
秘書がドアの前に立ったまま微動だにしない。
社長は私の前のソファに座った。

「キミは、うちの次男と、どういう関係かね?」

心臓が凍るような感覚があった。

「ど、どういうとは」

社長が鼻で笑う。
その姿は副社長にそっくりだった。

「別れてほしい」
「別れる?」

ようやく社長の言っている意味を理解した。

「私と副社長は付き合っておりません」

社長は睨むように私を見た。
その目に思わず怯む。

「本当です。お付き合いなんて」

すると社長が手を上げて秘書に合図すると、秘書はデスクから封筒を取り、社長に渡した。
社長は封筒を逆さにして中身を出した。
私は目を見張る。
そこには並んで歩く私と副社長の姿、占いをしている私たち、レストランで食事をしているところや副社長に抱きしめられている姿、たくさんの隠し撮りされた写真があった。
副社長のマンションから出てきただろう私の姿もある。

「これで付き合っていないと? じゃあキミはいったい、あいつの何なんだ?」

なんなんだろうか。
それは私が聞きたい。

「でも付き合っていないんです」
「こんな証拠を見せても認めないのか」
「認めないも何も本当なんです」

社長は呆れたようにソファに深く沈み込んだ。

「キミは施設育ちらしいね」
「……はい」
「大学にも行っていない」
「はい……」
「そんなキミがなんで我が社で正社員で働いているんだ?」
「え?」

私はいったい何を言われているのか、わからなかった。

「うちは高卒は取っていない」
「18歳の時にアルバイトで入ったんです」
「それで?」
「社員登用があって」
「本当に知らないのか?」

私は社長の顔を見た。

「申し訳ございません。話が見えないのですが」
「確かにアルバイトの中には高卒もいる。昔は高卒で働いている人もいた。しかし現在は大卒のみを採用しているんだ」
「はい……では私は……」
「宮木あゆ美さん、あなたを社員にしたのは駿だ」
「え?」

私は時が止まったように社長をただただ見つめるしか出来なかった。

「本当に知らないのか? それとも演技か?」
「ど、どういうことか、教えて下さい」

私の狼狽ぶりに社長はため息をついて、秘書を見た。
秘書がすっと社長の後ろに立つ。

「私から説明させていただきます」

秘書がそういうと社長は立ち上がって、窓の方へ向かってしまった。
秘書はそんな社長を気にもせず、封筒をデスクから持ってきて私の前に置き、社長が座っていた場所に座った。

「あなたがアルバイトで、御堂ツーリストのコールセンターで働いていたのは高校卒業してすぐでしたよね」
「はい」
「その後、1年コールセンターで勤務後、自宅近くの支店で3年間働き、正社員になっています」
「はい、社員登用のテストを受けました」
「それは大学生のアルバイト、または大卒のフリーターを対象にしたものです」
「え?」
「この時、すでに駿さんは副社長に就任していました。人事に口を挟める状況だったのです。そして、高卒も対象にするように規定を変えていたのです」
「それは、私とは」
「関係あります」
「彼は強く、あなたを推していたんです。あなたは4年間のアルバイト期間、かなりの貢献をしてくれていることを数値化したものを人事部長に渡していて、働いていた支店長からの評価も渡していました」

私は驚きすぎて、声にならず、副社長が渡したとされる私の推薦文を見ていた。

「確かに、あなたは優秀で人事部長も了承しました。しかし高卒は取らないルール。そこを副社長がひっくり返したのです。証拠にその年から高卒の新卒枠も出来たほどです。数は少ないですが、今年度も昨年も数名採用しています」

秘書が私の顔を覗き込んだので私も彼を見つめた。

「副社長があなたの為にルールを変更したのです」
「偶然だと思います。私と副社長は、出会ってまだ1ヶ月も経っていません」
「出会って?」
「あ……」

自分でそんな言い方しては墓穴を掘っている。

「あなたと駿さんは8年前に出会っています」
「それは企業PRで副社長が来た時ですよね?」
「知っていたんですか」
「はい、あれがきっかけで御堂ツーリストを選んだので。でも副社長は私のこと、覚えていませんし、知りません」
「本当に? 本人に聞いたんですか?」
「あいつが変わったのは、あの日からだ」

ずっと黙って窓の外を見ていた社長がこちらを振り返った。
私は社長の言っている意味がわからず困惑する。

「あいつは、それまで全くやる気はなく、ただ社員として、最低限のことのみをやるだけだった。俺も継がせるのは長男だと考えていたので放っておいたのだ。なのに、あの日から経営についても勉強し初め、グループ全体のことまで考え始めた。あっという間に兄を抜き、俺や会長の信頼を得た」
「それと私は関係ないと思います」

すると社長は笑った。

「わかってないな。男は女のために未知の力を発揮できるんだよ」

私は顔がカッと熱くなった。

「ふ、副社長が私の為に、どうこうなんてあり得ません!」

私は顔を伏せた。

「じゃあ、なんで今年から本社勤務だと思う?」
「え?」

私はドキドキして手が震えた。

「まさか……」

秘書を見ると頷いた。

「そんなはず……」
「あなたを本社勤務にしたのは駿さんです。最初は秘書にしようとしていましたが、さすがにそれは難しいと判断したようで、人手不足の総務部に配属を決めたようですけど」

私は驚きすぎて時が止まったようだ。

「自分の女を傍に置こうとするなんて」

社長が苦々しい声を出した。

「誤解です! 私たちはそんな関係では!」
「嘘をつくな! ここまでバレているんだ! いい加減に認めろ!」

大声を出されて一瞬ひるんだが私は負けたくなかった。
社長は私たちが恋人同士で、副社長が公私混同をしていると思っている。
そんなことあるわけないのに――

「副社長に確認して下さい!」
「あいつが正直に話すわけないだろ!」
「だから私に!?」
「ああ、そうだ! お前から駿を説得して別れろ」
「だから付き合ってない……」

辛くなってきて涙が出てきた。

「あなたは自分の施設に毎月のように支援物資を渡してますね」
「それが何か?」

私は涙を溜めた目で秘書を見た。

「調べたら、だいぶ経営難らしいです。了承してくれたら、社長は永久的に支援をすると言っています」
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