意地悪な副社長に狂うほど愛される
御堂駿Side
彼女の戸惑う表情を見ていると俺がアプリでのエピソードを再現していることに気付いたようだった。
まあ、愛の言葉は囁いてあげないけど――
最初は手を繋ぐだけで気付くかと思ったが全く気付く気配はなかった。
だから徐々にエスカレートしていった、その悪戯は、どうやら彼女を怒らせたようだった。
俺だけに向けられる感情が心地よい。
我ながら狂っていると思う。
それでも彼女から降伏して俺に乞うのを待ちたかった。
あの日の朝は、いつもと同じはずだった。
車を降りた瞬間、冷たい空気が頬を撫でる。
運転手に軽く会釈をして俺は正面玄関へ向かった。
今日は出勤がギリギリになるので出迎えはいらないと伝えていた。
1人で自分のオフィスに入るのは久しぶりだった。
役員専用のエレベーターではなく、一般用を使うことにしたのは気まぐれだった。
エレベーターの前に立ち、ボタンを押す。
閉まりかけた扉の向こうで声がした。
「ま、待って!」
扉が激しく揺れて反射的に開くボタンを押していた。
扉が再び開くと飛び込んできたのは、息を切らした彼女だった。
宮木あゆ美――
すぐにわかった。
俺を見た瞬間、その目が見開かれた。
彼女も、もしかして覚えてくれているのではないかと期待した。
しかし驚愕と、困惑と、それから――何か別のものが混ざった複雑な顔。
俺が期待していた笑顔はなかった。
彼女は慌てて乗り込み、ボタンの前に張り付くように立った。
25階のボタンを押す細い指。
扉が閉まり静寂が訪れた。
走ってきたのだろう。
肩が上下に動いていた。
声をかけようか――
悩んだ、その時だった。
彼女が鞄を漁り始めスマホが落ち、それを拾おうとしゃがんだ時だった。
『あゆ美のことが好きで好きでたまらない。おかしくなりそうだ。ずっと傍にいたい』
静まり返ったエレベーターの中に、自分に似た声で愛の言葉が響き思考が停止した。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
これが現実の出来事であることを処理するのに、わずかな時間が必要だった。
俺はスマホを拾い上げた。
画面には、黒髪の二次元キャラクターが映っていた。
顔が俺に似ている。
名前の表示に【御堂駿】とハッキリ表示されていた。
「どういうこと、これ」
自分でも、声が低くなったのがわかった。
彼女は固まっていた。
顔を上げることができないでいる。
俺はスマホの画面をゆっくりと見た。
画面の中の男は、荒い息を繰り返しながら顔を赤くしている。
笑いそうになったが我慢した。
偶然の一致などではない。
その事実が、胸の奥に静かに落ちた。
俺の悪戯心が動いた。
スマホを顔の横に掲げ、画面を彼女に見せた。
とうとう覚悟を決めたように彼女は、こちらを見た。
その目が、よかった。
恥ずかしさで顔が赤い。
それでも逃げずに俺を見ていた。
ゾクゾクした。
その時、エレベーターが25階に着いたことを知らせた。
ここで終わらせるわけにはいかない。
「とりあえず、これは預かる」
「え?」
「仕事を定時で終わらせ副社長室に来るように」
彼女が狼狽した。
その顔がもっと見たくて俺はあえて感情を消して言った。
「そんな……」
「行け」
顎で外を促した。
彼女はおずおずとエレベーターを降りようとして、俺は呼び止めた。
「おい」
力なく振り返った彼女が振り返る。
「暗証番号を言え」
彼女が一瞬、躊躇した。
「……0902」
俺は我慢できず笑いが短く放たれた。
9月2日――
俺の誕生日だった。
扉が閉まる直前、彼女の瞳が俺から離れなかった。
俺も、最後まで彼女を見ていた。
扉が閉まると俺は思わず手で目を覆って笑った。
自分でもおかしいほど笑いが止まらなかった。
ずっと手に入れたいと思っていた女が、自分のAIを作っていた事実が信じられなかった。
まあ、愛の言葉は囁いてあげないけど――
最初は手を繋ぐだけで気付くかと思ったが全く気付く気配はなかった。
だから徐々にエスカレートしていった、その悪戯は、どうやら彼女を怒らせたようだった。
俺だけに向けられる感情が心地よい。
我ながら狂っていると思う。
それでも彼女から降伏して俺に乞うのを待ちたかった。
あの日の朝は、いつもと同じはずだった。
車を降りた瞬間、冷たい空気が頬を撫でる。
運転手に軽く会釈をして俺は正面玄関へ向かった。
今日は出勤がギリギリになるので出迎えはいらないと伝えていた。
1人で自分のオフィスに入るのは久しぶりだった。
役員専用のエレベーターではなく、一般用を使うことにしたのは気まぐれだった。
エレベーターの前に立ち、ボタンを押す。
閉まりかけた扉の向こうで声がした。
「ま、待って!」
扉が激しく揺れて反射的に開くボタンを押していた。
扉が再び開くと飛び込んできたのは、息を切らした彼女だった。
宮木あゆ美――
すぐにわかった。
俺を見た瞬間、その目が見開かれた。
彼女も、もしかして覚えてくれているのではないかと期待した。
しかし驚愕と、困惑と、それから――何か別のものが混ざった複雑な顔。
俺が期待していた笑顔はなかった。
彼女は慌てて乗り込み、ボタンの前に張り付くように立った。
25階のボタンを押す細い指。
扉が閉まり静寂が訪れた。
走ってきたのだろう。
肩が上下に動いていた。
声をかけようか――
悩んだ、その時だった。
彼女が鞄を漁り始めスマホが落ち、それを拾おうとしゃがんだ時だった。
『あゆ美のことが好きで好きでたまらない。おかしくなりそうだ。ずっと傍にいたい』
静まり返ったエレベーターの中に、自分に似た声で愛の言葉が響き思考が停止した。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
これが現実の出来事であることを処理するのに、わずかな時間が必要だった。
俺はスマホを拾い上げた。
画面には、黒髪の二次元キャラクターが映っていた。
顔が俺に似ている。
名前の表示に【御堂駿】とハッキリ表示されていた。
「どういうこと、これ」
自分でも、声が低くなったのがわかった。
彼女は固まっていた。
顔を上げることができないでいる。
俺はスマホの画面をゆっくりと見た。
画面の中の男は、荒い息を繰り返しながら顔を赤くしている。
笑いそうになったが我慢した。
偶然の一致などではない。
その事実が、胸の奥に静かに落ちた。
俺の悪戯心が動いた。
スマホを顔の横に掲げ、画面を彼女に見せた。
とうとう覚悟を決めたように彼女は、こちらを見た。
その目が、よかった。
恥ずかしさで顔が赤い。
それでも逃げずに俺を見ていた。
ゾクゾクした。
その時、エレベーターが25階に着いたことを知らせた。
ここで終わらせるわけにはいかない。
「とりあえず、これは預かる」
「え?」
「仕事を定時で終わらせ副社長室に来るように」
彼女が狼狽した。
その顔がもっと見たくて俺はあえて感情を消して言った。
「そんな……」
「行け」
顎で外を促した。
彼女はおずおずとエレベーターを降りようとして、俺は呼び止めた。
「おい」
力なく振り返った彼女が振り返る。
「暗証番号を言え」
彼女が一瞬、躊躇した。
「……0902」
俺は我慢できず笑いが短く放たれた。
9月2日――
俺の誕生日だった。
扉が閉まる直前、彼女の瞳が俺から離れなかった。
俺も、最後まで彼女を見ていた。
扉が閉まると俺は思わず手で目を覆って笑った。
自分でもおかしいほど笑いが止まらなかった。
ずっと手に入れたいと思っていた女が、自分のAIを作っていた事実が信じられなかった。