第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
アラン殿下が一歩前へ出て、場を引き締める。
「さて。まだすべきことはある」
その声に、騎士たちの背筋が一斉に伸びた。
「動ける騎士は負傷者の確認と搬送だ」
「はい!」
アレン、ロベルト、ルーク団長、オリバー副団長、エリックが立ち上がる。
アラン殿下は次々と指示を飛ばす。
「ルーク団長は迷宮周辺の安全確認を。
オリバー副団長は警戒線の構築を。
アレン、ロベルトは負傷者の搬送を手伝え。
エリックは医療班の誘導だ」
「了解!」
「任せてください!」
「すぐに動きます!」
騎士たちはそれぞれの役割へ散っていく。
仲間たちもそれに続くように動き始めた。
「ほら動くわよ!」
ルイがレオの腕をつかんで引っ張る。
「えーもう!?」
レオが絶叫しながらも、渋々立ち上がる。
テオは肩を回しながら、ルーク団長の後を追う。
「はぁ……結局働くの俺らじゃん」
「文句言わないの」
ルイが呆れたように返す。
ユウリは静かに医療班へ向かい、
ロベルトはアレンと共に負傷者の搬送へ走った。
その時、セナがディランの前に立つ。
「殿下……」
「セナ」
「その怪我……謝りませんから」
「ちょっ、セナ!!」
私は慌てる。
だがディランがふっと微笑んだ。
「ああ、それでいい」
「お嬢様はゆっくりしててください」
その優しい声に、胸が温かくなる。
そこへレイが眼鏡を押し上げながら声をかけた。
「セナさん、こっちの通路の確認お願いします」
「了解です」
セナが軽やかに駆けていく。
わちゃわちゃと騒がしかった声が、
少しずつ遠ざかっていく。
アレンとロベルトの慌てた声も、
レオの文句も、
ルイの叱責も、
テオのため息も、
セナとユウリの優しさも――
全部、庭の奥へ消えていった。
やがて――
庭には、私とディランだけが残った。
風が静かに吹き抜け、
草の匂いと、戦いの余韻だけがそこにあった。
ディランは隣で、ゆっくりと息を吐く。
「……静かになったな」
「ええ」
2人だけの時間が、ようやく訪れた。