第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
セナは、食らいついていた。

弾かれても、すぐに間合いを詰め直し、
一歩も引かずに剣を振るう。

(……すごい)

さっきまで圧倒されていたはずなのに、
今は――十分に渡り合っている。

木剣がぶつかり合い、乾いた音が連続して響く。

「おい……」

「殿下に、あそこまで――」

周囲の騎士団員たちも、完全に息を呑んでいた。

ディランの表情が、ほんのわずかに楽しげに緩む。

(認めてる……)

そう確信した、その瞬間。

「――殿下」

低く、しかし切迫した声。

側近のレイさんが、訓練場へと歩み出てきた。

ディランの動きが、ぴたりと止まる。

「どうした?」

「急ぎの案件です。
 今すぐ、ご確認を」

レイさんの表情は硬い。
ただ事ではない。

ディランは短く息を吐き、木剣を下ろした。

「……そうか」

そしてセナへ向き直る。

「セナ、すまない」

「いえ」

セナもまた、深く頭を下げる。

「次は――邪魔の入らない場所で、だな」

「そうですね」

ほんの一瞬。

ディランの視線が、こちらへ流れた気がした。

(……気のせい?)

けれど、その目は何も語らない。

「では」

それだけを残し、ディランはレイさんと共に颯爽と去っていった。

残された訓練場には、
ざわめきと、言葉にできない緊張だけが残る。

(……嫌な予感しかしない)
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