第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

逢引き疑惑

私はセナと並んで歩きながら、
足音を殺してディランの背中を追った。

(……急ぎの案件って、何のこと?)

通路はやけに静かで、
さっきまでの騎士団の喧騒が嘘みたいに遠い。

やがてディランが、とある部屋の前で立ち止まる。
その瞬間、扉が内側から開いた。

「あれ……ローゼ?」

姿を見せたローゼは迷いもためらいもなくディランに抱きついた。

「……え」

思わず声が漏れそうになる。

「こ、これが急ぎの用ってこと?」

ディランは驚いた様子もなく、
ローゼの耳元へ顔を寄せ、低く何かを囁いた。

(ちょっと、距離近すぎじゃない?)

「ねぇ……これ、逢引きじゃないの」

小声でセナに囁くと、
彼は即座にため息をついた。

「そんな浮かれた空気じゃありませんよ。
 どう見ても」

さすが、冷静。

そのとき――

鋭い視線を感じた。
私は反射的にセナの腕を引き、物陰へ身を潜める。

「やば……」

視線の主が、こちらを一瞬だけ掠めた。

「……レイさんですね」

ディランの側近。
気配の読み方が、どう考えても常人じゃない。

「背中に目でもついてるのかな」

「本当に、そんな感じですね」

心臓の鼓動を押さえ込みながら、
私たちは息を潜めた。
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