第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
その直後――
「――楽しそうだな。弟の覗き見か?」
背後から、軽い調子の声が降ってきた。
「っ……!」
息が詰まり、反射的に振り向く。
そこに立っていたのは――
「アラン殿下……」
相変わらず余裕をまとった笑みを浮かべている。
「はは。よく似合ってるじゃないか、男装」
「ありがとうございます。アラン殿下のおかげです」
「いやいや。交換条件だっただろ?」
肩をすくめるアラン殿下に、私は思わず視線を逸らした。
「それにしても……」
彼は通路の奥へちらりと目を向ける。
「弟は、他の女性と密会か?」
「……そう見えますよね。ローゼ嬢は少し面倒だって言ってたのに」
「へえ」
「アラン殿下」
セナが静かに口を挟む。
「少なくとも、あれは甘い雰囲気ではありませんでした」
「ほう?」
アラン殿下が興味深そうに目を細める。
「ますます面白いな」
軽い口調とは裏腹に、その視線は鋭い。
「私と少し話さないか」
アラン殿下は軽く顎を上げた。
「何か探っているんだろう? ……力になる」
「ほんとですか?」
思わず前のめりになる。
「ああ」
迷いのない即答。
「ありがとうございます」
素直に礼を言うと、横からセナがそっと耳打ちしてくる。
「……大丈夫ですか? 信用して」
「大丈夫」
小さく笑って返す。
「この人、ブラコンだから」
「……は、はあ」
セナは明らかに納得しきれていない。
私は一歩前に出て、アラン殿下と向き合った。
「じゃあ、こっちだ」
踵を返すアラン殿下。
その背中を、私は迷わず追った。