第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

アラン殿下は、ある部屋の前で足を止めた。
周囲を一度だけ確認すると、私たちを中へと招き入れる。

「ここなら誰にも聞かれない。
 それで――何を探っているんだ? 男装してまで」

「陛下についてです」

「ああ……あの人か」

あまりにもあっさりとした返事。

「陛下が何か企んでいる気がします。
 その証拠を探りに来ました」

「なるほど」

短く頷いたあと、アラン殿下はふと遠くを見るような目をした。

「そういえば……魔宝獣に襲われたそうだな」

「ええ。まあ」

「……陛下のやりそうなことだ」

自嘲めいた笑みが、口元にかすかに浮かぶ。

「あの人は昔からそうだ。
 容赦がない。冷徹で――」

一拍置いて、低く続ける。

「使えるものは使う。
 そして、不要になれば、すぐ切り捨てる」

胸の奥が、ひやりと冷えた。

「……ただ」

アラン殿下の声が、さらに沈む。

「ディランに対しては、異常だ」

「やっぱり……」

「教育は厳しかった。いや、それだけじゃない」

彼は淡々と語るが、その内容は重い。

「身体づくり、訓練、生活管理……
 まるで陛下の都合のいい操り人形だ」

次期国王にするため――
その理由だけでは到底説明がつかない。

「そこにあるのは、底知れない暗さだ」

私は無意識に拳を握りしめていた。
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