第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

アラン殿下は、肩をすくめた。

「噂程度だな。
 私自身、ここには住んでいない」

「今回は式典のために来ただけだし」

「……そうでしたか」

思わず声が沈む。

「ただ……」

アラン殿下は、何気ない調子で続けた。

「北側の部屋に入るつもりなら――正面からはやめておいたほうがいい」

「え?」

「図書館だ。
 禁書庫の奥から入るルートがある」


そう言って、机の上に紙を引き寄せ、さらさらと地図を描き始めた。


「この裏に、隠し扉がある」

「……なぜ、それを?」

問い返すと、

「まあ」

アラン殿下は、にやりと笑った。

「これくらいはね」

完全に誤魔化している。

「もし潜入するなら」

声が少し落ちる。

「王国創立記念式典の最中がいいだろう。
 警備の目が一番散る」

そして――
ふざけた空気が、すっと消えた。

「……これだけは言っておく」

真っ直ぐ、こちらを見る。

「祖父は、ディランに異常なほど執着している」

「何か、よからぬことを企んでいるのは間違いない」

一拍置いて、

「弟を、頼んだよ」

その言葉に、私は迷わず頷いた。

「はい」

力強く。

横でセナも静かに頷いていた。
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