第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……テオ」

背後から、ほとんど息だけの声が落ちてきた。

「ユウリ……ウェイター様になってるね」

「それはどうも」

ユウリは軽く肩をすくめる。
その自然さは、役に溶け込むことに慣れた者の動きだ。

「そちらは、どうです?」

「北側の部屋は、やっぱり怪しい。
 正面から入るのは厳しいな」

視線を逸らしつつ、周囲の気配を探る。

「裏側も、もう少し探ってみる」

「分かりました」

一拍置いて、ユウリが問い返す。

「そっちは? 何か進展は?」

「特には。……ただ、少し気になることが」

声がわずかに低くなる。

「ディラン殿下の両親が亡くなっているのは、知っていますか?」

「……ああ。まあ」

「その死亡事故について、妙な噂を少し耳にしまして」

「へぇ」

思わず、口の端が上がる。
ユウリが“妙な噂”と言うときは、だいたい本当に妙なやつだ。

「調べているところです」

「なるほどね」

一瞬だけ、互いの視線が交わる。

短いが、十分な確認。

「じゃあ、お互い気をつけよう」

「そうですね」

ユウリは、何事もなかったように一礼した。

「では」

そのまま、雑踏へと自然に溶けていく。
気配が消えるのが早い。相変わらずだ。

小さく息を吐き、再び壁へ視線を向けた。

(……さて。こっちも急がないとな)

静かに足音を消し、再び動き出す。
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