第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

そして、当日を迎えた。

怪しまれないよう、私は合宿の最終日まで参加し、その足で慌ただしく隠れ家へ戻った。
ルイに急いで身なりを整えてもらい、息を整える間もなく再び会場へ向かう。

「ふう……間に合った」

「本当に、ギリギリですよ。お嬢様」

セナが呆れたように言いながらも、その表情には安堵が滲んでいた。

「さて、行こうか」

「はい」

差し出されたセナの腕に手を添え、会場へ足を踏み入れる。

――瞬間、視界が光に満たされた。

天井から幾重にも吊るされた巨大なシャンデリア。
きらめくドレスと礼装が波のように揺れ、優雅な音楽が空気を満たす。

(……これが、王国創立記念式典)

その中心。
階段の上から、ゆっくりと姿を現す影。

金色の髪。
エメラルドの瞳。

誰が見ても疑いようのない――王子。

(ほんとに、絵に描いたみたいだな)

視線が絡む。
ディランが、わずかに微笑んだ。

「ティアナ」

一段ずつ降りてきて、私の前に立つ。

「手を、取ってくれるね」

「ええ」

セナが静かに一礼し、後ろへ下がる。
私はディランの手を取った。

温かくて、強い手。
そのまま2人で進む。

玉座の前。
ジョルジュ陛下が、冷たい瞳でこちらを見下ろしていた。

――氷のような視線。
すべてを値踏みするような、逃がす気のない目。

「よく来たな」

低く、感情の読めない声。

「今日は存分に、楽しんでいくといい」

(……白々しい)

「ええ。ありがとうございます」

形式通りに頭を下げる。
その間も、陛下の視線は一瞬たりとも離れない。

まるで――獲物が逃げないか確認するように。

ディランの手に、わずかに力がこもる。

(大丈夫)

言葉にしなくても伝わる。

――ここからだ。

この華やかな夜の裏で、
すべてが動き出す。
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