【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
「奥様。本当に宜しかったのですか?」
はたきを手に、懐かしい制服に身を包んだリリアが静かに言った。目を丸くしてから、私は笑みをつくる。
「こんな会話、前もしたわね」
「...........」
王弟殿下に嫁ぐためユービィスト王国へ発った日、船で交わした言葉。
意味が伝わったのだろう。
彼女の眉尻がみるみる下がった。
私は、手元の本に視線を落として続けた。
「これでいいのよ。彼には本当に愛する人と幸せになってもらいたいもの」
ーー数日前。
フェンリル様の遠征中に、私はリリアと共に公爵家を出てリーフェント家へ戻ってきた。
記入済みの離婚届と置き手紙。
それからーー
完成した『治療薬』をおいて。
十分育った特別なハーブや薬草を使って、フェンリル様の鼻を治すための薬を調合した。
きっと効果はある。
なんてったって、祖母の薬草ノートの情報も組み合わせてあるのだから。
薬草やハーブの知識に長けた父方の祖母は、すべてをノートに記していた。
祖母の作る薬は異端で、類を見ない独特の組み合わせからできていた。
だが、身内贔屓でもなんでもなく、祖母の薬は効果抜群だ。
彼女は若い頃世界中を旅して、膨大な知識と調合の腕を身につけた。その最中で、ユービィスト王国にも立ち寄っている。
ユービィスト王国は、自然豊かだ。
薬草となる植物も多い。
ノートと本を読み込みながら、貴国に自生する薬草や、輸入されている他国のハーブを組み合わせて、試行錯誤して、薬を作り上げた。
『鼻が利くようになれば、殿下の『記憶』を取り戻す手立てになるかもしれないのですね?』
『私は.....その可能性がある気がしている』
彼が番を失ったと話してくれた日の言葉。
確信がなくても、きっと何かが変わる。状況が動く。私もそう思った。
記憶を取り戻して、彼には幸せになってほしい。
そう。だからこそーー
「これ以上、近づいてはだめだったのに.....」