【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
ちらりと馬車の車内に目配せしたリリアに、私は頷いて答えた。
車内はとても快適に整えられていた。
長旅に対する身体への気遣いに溢れている。
例え必要に駆られて娶る政略結婚の相手でも、思い遣りを持っているという気持ちが伝わってくる。
リリアも同じように感じたのか、船では沈んでいた表情が少しだけ明るさを取り戻していた。
会話しているうちに、立派なお屋敷が立ち並ぶ通りの角を曲がり、馬車は奥へと進んでいく。
そこにはとても広い庭、深緑色の屋根と白い壁の一際立派な屋敷が建っていた。
白くおしゃれな鉄の門をくぐると、屋敷の前にたくさんの使用人らしき人影が見える。
「お嬢様.....歓迎して下さっておりますわ」
「ええ、そうね。嬉しいわ」
皆、穏やかな表情で、私たちを温かく迎えてくれているのがすぐにわかった。
と、使用人たちの間から、スッと大きな影が進み出た。最前列まで来ると動きをぴたりと止めて、じっと馬車を見据える。
遠くからでもはっきりわかる、美しい耳と尻尾。凛々しい佇まい。
「....フェンリル様」
その姿はあの日のまま。
胸の内から込み上げる気持ちのままに....気づけば唇が彼の名を紡いでいた。
瞬間、ピクリと三角耳が揺れて。窓越しに、銀の瞳と視線がぶつかった気がした。
馬車の中でつぶやいた声など、聞こえているはずもないのにーー。
絡んだ視線も。ほんのわずかに彼が目を見開いた気配も。きっと私の気のせいだろう。