【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?


 ーーカタリ。馬車が到着する。
 御者が扉を開けると、ステップの横に彼が歩み寄った。

「長旅、ご苦労だった。.....遠い所をありがとう」

 一言目がそんな言葉で、再会を前に緊張していた身体が柔らかく解れていった。

「.....こちらこそ。お忙しい所、お出迎え感謝いたします.....殿下」

 フェンリル様とは呼べない。
 私はいま人間の姿で、彼と私は初対面なのだ。

 視線が無意識に滑っていく。
 静かな水面の様な表情と連動する様に、旅の間はいつも揺れていた尻尾が、今はスンとしていて動きを見せない。

 彼は私がミーナだとは知らない。
 それでいい。本能のまま一夜を過ごした相手など気まずさを覚えるだけ。
 いや、もしかすると半年も前のことだ。
 彼の中ではとっくに忘れ去られているかもしれない。

 番を失った悲しみの方がずっとずっと.....鮮明だろうから。

 地面に降り立った私を、フェンリル様はじっと見つめた。

「...........?」

 二人の間にしばし沈黙が落ちる。
 私が首を傾げた頃、漸く彼が口を開いた。

「ああ、何でもないんだ。.....改めて。フェンリル・ユービィストだ。今回の結婚の申し出、受けてくれて助かった。知っての通り、私には事情がある。本来ならすぐにでも婚姻を、と言いたい所なのだが....妻となる君に、先に説明しておきたいことがある」

「...........?」

「一旦、中へ。ここは冷える。部屋で話そう。荷物は君の部屋へと運んでおくから」

「はい」

 そうして、私たちは屋敷の中へ入っていった。


< 71 / 134 >

この作品をシェア

pagetop