【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
執務室に通され、ソファに向かい合って腰掛けた。
リリアは荷物の整理のため離れ、人払いされた室内は私と殿下の二人きりだ。
使用人が離れる前に用意してくれた紅茶から、静かに湯気がたちのぼっている。
「座ってくれ。私のことはフェンリルと。君のことは....」
「自己紹介が遅くなり申し訳ありません。ジャスミン・リーフェントと申します。ジャスミンで大丈夫ですわ」
「ジャスミン嬢、よろしく。早速なんだが....」
フェンリル様は、真っ直ぐに私を見つめた。
その顔には迷いの色はない。
「私には番がいる」
「......はい、聞き及んでおります」
「......そうか。だが、きちんと説明しておきたい。番はいるが.....理由あってその番を失ってしまった」
「............」
瞬間、表情は暗く沈んで、煮詰めたような辛さが感じられた。重い口をゆるゆると開いて、再び続ける。
「私の記憶は一部欠けている」
「記憶が?」
「ああ。薬を嗅がされてな。おそらく....魔法薬の類だ。幸いすぐ対処して大事には至らなかったのだが.....それから大切なことが思い出せない。.....番を失ったのもそのせいだ」
「記憶が、欠けたせいで.....」
大切な思い出の記憶が欠けてしまった。そして、そのことに失望した番の方は、フェンリル様の元から去ってしまった。そんな想像が、私の頭の中を駆け抜けていった。
「どうすれば記憶を取り戻せるのかもわからない。
もし魔法で解けるならと他国の上級魔法使いと呼ばれる者に解毒を頼んだが、ダメだった。
魔法で封じられた記憶を取り戻すには『鍵』がいると言われてな。でもその『鍵』が何なのかもわからない。お手上げ状態だ。
せめて鼻が利けばいいのだが.....その日から鼻までおかしくなって.....においがわからないんだ。医師には診てもらっているが、変わらない」