【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
「鼻が.....」
「ああ」
「あの.....鼻が利くようになれば、殿下の『記憶』を取り戻す手立てになるかもしれないのですね?」
「はっきりとは言い切れない。でも私は.....その可能性がある気がしている」
「なるほど....」
室内は、また静けさを取り戻す。
俯いているフェンリル様の顔をじっと見つめる。
確かにその姿はあの日のまま。だが、近くで見ればよくわかる。目の下に浮かぶ隈やこけた頬。あまり優れない顔色。
悲しみに暮れているという噂が、脳裏を掠める。私は思考の海に沈んでいった。
どのくらい経っただろうか。
下を向いていた顔をあげ、フェンリル様は沈痛な面持ちで告げた。
「単刀直入に言おう。.....私はこれからも番への気持ちを持ち続ける」
「.....はい」
「私には、婚姻を急ぎたい事情がある。だから、君には本当に感謝している。しかし....人間の君が思い描く様な普通の夫婦にはなれないだろう。.....私は」
ーー君を愛することはできない。
彼が一番伝えておきたかったことはこれだった。けれど、私の中でそれは覚悟してきたことだ。
「.....それでも、結婚してくれるだろうか?」
遠慮がちに尋ねたフェンリル様に、私は深く頷いた。
「....ええ、殿下。いえ、フェンリル様。よろしくお願いします」
「ありがとう....」
そして。その一週間後、私たちは夫婦となった。
フェンリル様の事情と式は二人きりの小さなものがいいという私の希望から、ステンドグラスの綺麗な教会でひっそりと誓いを立てた。
婚姻をすませると、フェンリル様はすぐさま臣下にくだった。公爵の位を賜り、フェンリル・ウィルフォードと名を改めた。