【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
そんな疑問が浮かんだ。でも、すぐに透明に消え去った。どの時点からでも事実は変わらない。
記憶を封じる魔法薬のせいでも。
番を失った悲しみに打ち消されたせいでも。
いま、彼は『ハーブ』の言葉にとらわれなかった。彼は『ミーナ』との出来事は覚えていない。
「うむ、間引いたものも茶葉にできるのだな。夜はぐっすり眠れるし、食欲も戻ってきた。さっきサイラスにも言われたよ」
ーー君のおかげだ。ありがとう。
「.............っ」
身勝手にも俯きかけた心が.....すぐにまた上を向いた。私を真っ直ぐ見据えて贈られた言葉。
彼はどうしていつも.....いとも容易く私の心を攫っていくのだろう。
そわそわする気持ちを誤魔化したくて.....私は再び手を動かし始めた。
彼はそんな私のすぐそばに屈んでーー
頬杖をついて、じっと私を見つめていた。
どのくらい経っただろう。
「本当に....不思議な人だ」
「..............?」
微かな声は、サクサク土をかく音にかき消された。
「何でもない。.....なぁ。またここに来てもいいだろうか......ジャスミン」
「っ、は、はい.....もちろんですわ」
流れるように言われて、心臓が跳ねた。
君でも、ジャスミン嬢でも、『ミーナ』でもなく。
初めて本当の意味で、名を呼ばれた心地がした。
返事を聞いて、彼が満足気な表情を見せた気がしたのも。一瞬、尻尾がふわりと振れた気がしたのも。
きっと私が.....そのことに舞い上がっていたからだ。