【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?


 ジャスミンは今日も庭で花壇の手入れをしている。

 その姿を見ながら、深い安息感に包まれる。

 時折、眼鏡越しにラベンダーの瞳と目があって。照れたように笑んで、そっと視線を戻す。そんな仕草にも、ほうっと心が蕩ける。

 彼女の侍女・リリアが、俺が現れる度にサイラスと同じ顔をして、まるで残念なものでも見る目を向けてくるのは納得いかないが。

 ここに来ることはやめられそうもない。
 やめたいとも思わない。

「フェンリル様?まだお時間は大丈夫なのですか?」

 ああ、この声。
 天使が歌うようにふんわりと軽く、耳を撫でていく。

「んー....もう少しだけ」

 頬杖をついて、またじっと彼女を見つめる。

 離れがたくなって、疲れた時に顔が見たくなって、姿が見えないと探してしまう。

 先日贈ったネックレスが、毎日彼女の首元で煌めくのを見て、頬が緩む。

 楚々とした笑みを浮かべて頷いたジャスミンだけが、俺の視界を埋め尽くしていく。

「あったかいな」

「ええ。清々しい陽気ですわね」

 俺が言った意味を、天気の話だと思い込む様子に癒される。ジャスミンのことを言ったのに。

 記憶を封じられてからも、一度番を認識した心と身体は正直だった。

 思い出せないのに心は凍えて、寂しさと喪失感に襲われる。本音を言うと、生きていることさえ辛かった。

 それが彼女と出会って、懐かしさを覚え、不思議な気持ちを抱いた。

 お茶や気遣いのおかげで体調は上向きになり。彼女の穏やかな空気が、心をあたためてくれた。

「今日は肥料はやらないのか?」

「はい。この子達はあまり肥料は必要ないそうです」

「....そうか。確かに水だけでも元気だな」

「そうなのです。今は、水とたっぷりのお日様の光が必要なのです。もうすぐ最後の仕上げの時期がやってくるので、その時に肥料を沢山与えて欲しいそうですわ」

「うむ。なるほど」

 植物のこととなると目を輝かせて生き生きと話す姿にも、笑みが溢れる。

 話口調が、まるで植物たちと会話しているようなのも愛らしくて.....、とそこまで考えてハタと動きを止める。

 愛らしい....? 俺は首を捻った。
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