【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
「........っ」
その瞳はどんよりと仄暗く光っていてーー。
一瞬、今まで彼に感じたことのない恐怖のようなものが襲った。思わず肩が揺れる。
そんな私にチラリと視線を戻してから、またルーファスを見たフェンリル様は、低く地を這う声で言った。
「ジャスミンは今、忙しい。すまないが、遠慮してくれるか。.....それから、お嬢様ではない」
ーー奥様、だ。彼女は私の妻なのだから。
「....っ、は、はい。申し訳、ありません」
「もうひとつ。....ジャスミンはつけなくていい。この屋敷で、奥様と呼ばれる存在は彼女だけだ。それだけで伝わる。.....わかったな」
「は、はい」
顔を青くして、身体を半分に折る勢いで頭を下げるルーファスは、周囲を取り巻くあまりの圧迫感にカタカタと小さく震えている。
「もう仕事に戻れ」
「はい....失礼致します」
二人のやりとりをただ立ち尽くして見ていた私は、ルーファスの立ち去る足音で、自分を取り戻した。
「あ、あの....申し訳ありません」
フェンリル様が居るのに二人で話し込んでいて、いい気持ちがするわけがない。例えほんの少しの時間だったとしても、失礼なことをしてしまった。
顔をあげられず、視線は俯けたまま彼に謝罪した。
「君が、謝ることじゃない。ただ....」
「.........?」
「いや....。ああ、そろそろ俺も仕事に戻らねば」
「は、はい」
「行ってくる。....今日は仕事が立て込んでいる。夕食は先に食べていてくれ」
「.......はい」
最近は、ずっと共にしていた食事。
やはり怒っているのかもしれない。
胸の奥が軋む音がした。
結局、視線を上げた時にはフェンリル様の背中は遠くなっていて、彼の表情をうかがい知ることはできなかった。